
横浜市が臨海部活性化の「有力な手法の一つ」として導入を検討しているカジノを含む統合型リゾート施設(IR)についての主張が、市会議員選挙(12日投開票)で目立たない。反対論はあるものの、表立った誘致推進の声は聞こえてこない。いわゆるカジノ法案が今国会に再提出されていないこともIRをめぐる舌戦が低調な理由だが、有権者の賛否が分かれやすいテーマだけに、選挙中はあえて触れる必要はない、との思惑も透けて見える。
安倍晋三首相はIRを「成長戦略の目玉」に位置付ける。全国の複数自治体が誘致に名乗りを上げる中、横浜が地盤の菅義偉官房長官は「首都圏で一つと思っている。横浜は有力な候補地だ」と明言。林文子市長も「有力なメニュー」と受け止め、地元経済界も誘致に意欲的だ。
反対の立場を旗幟(きし)鮮明にするのが共産党だ。ある新人候補の事務所では、本人の名前を掲げた看板に「横浜にカジノはいらない」と目立つように書き入れた。「カジノで経済成長を図るという発想がそもそもおかしい」と歯に衣(きぬ)を着せない。この候補によると反対に賛同するのは主婦層に多く、「今回はあなたへ入れる」という声も聞くという。
「ワイドショー的にカジノだけを取り上げて賛否を論じるのはよくない」と語るのは自民党ベテラン現職。賛成の立場だが、選挙戦であえてIRをアピールすることはしない。「大事なのは横浜の魅力をどうつくるか。カジノだけではなく横浜全体で魅力アップの議論をすべきだ」と話す。自民の中堅現職も「短いフレーズで漠然とした先入観を植え付けてはかえって誤解を与える。じっくり時間をかけて議論するべき問題。選挙中に膝詰めで説明する時間はない」と、あえて触れない。
自民新人からは「カジノにマイナスイメージを持つ人もいるので言いづらい。できるだけ触れたくないのが本当のところ。横浜の活性化を考えていかなければならないのだが…」と率直な声も漏れてくる。
こうした姿勢に、共産のベテラン現職は「選挙後には法案が国会に出され、成立するだろう。争点隠しだ」と非難する。
一方、他党はどうか。
カジノ法案は超党派の議員連盟がまとめ、自民などが2013年に臨時国会に提出したが、去年の衆院解散に伴い廃案となった。今回、再提出を予定する法案ではギャンブル依存症などへの懸念に配慮し、カジノ施設への日本人の入場に一定の規制を設ける修正が盛り込まれた。議連は統一地方選後に再提出し、今国会での成立を目指すが、公明党は慎重で、民主党内にも懸念する声がある。
民主新人は「党が賛否を明確にしていないので、よく街角で有権者にカジノについて聞かれるが、答えづらい」と困惑顔。公明のベテラン現職は「法案が提出されてもおらず、選挙で訴えるには材料がない。論戦の土俵に上げられない」と言う。ただ、「今後法案が通過すれば、議論は避けては通れない」
維新の党はすでに公約で賛成している。中堅現職は「カジノは今は明確な争点ではないかもしれないが、市議選後の4年間で必ず大論争になる。有権者に聞かれたら党の方針とは異なるが、『横浜市に持ってくることには賛成の立場ではない』と答えるようにしている」と話した。