「ご飯食べよう」
集まった母親同士が声を掛け合い、持参した弁当をテーブルに並べると、子どもの遊び場が昼食会に早変わりした。乳幼児に食事を与えながら食卓を囲めば、子育ての悩みや、日常の他愛もない話で会話が弾む。
相模原市中央区の子育て広場「バンビのぽれぽれ広場」。育児に悩みを抱える母親の交流の場として、任意団体によって10年ほど前に設けられ、2013年に市の地域子育て支援拠点事業として委託を受けた。毎日、20組ほどの親子が訪れるという。
3年前、大阪府から市内に移り住んだ女性(30)は「周りに友達もいないので、ここに来て顔見知りが増えた。同じような悩みや、日常の話ができる」と話す。
市の推計では、微増を続けている市内の人口は19年の約73万人をピークに減少に転じ、60年には4分の3の約54万人にまで減少するとされている。少子高齢化が進む中、人口増へ向けた取り組みはすべての自治体の課題だ。
市は「人や企業に選ばれるまちづくり」をスローガンに、企業誘致による雇用の場の創出、市民サービス向上など全体の底上げを目指している。中でも、将来の人口増につながる若い世代に“選ばれる”ために、子育て支援は欠かせない。
14年10月、市は子育て支援の一環として、小学校3年生までを対象としていた通院の医療費助成を、6年生までに拡大すると発表した。15年度一般会計当初予算に約21億3千万円を計上、今年4月の診療分から適応される。
子育て交流会「ふれあい親子サロン」の開催や、子どもが生まれた全家庭を母子訪問相談員が巡回するなど、合併前は旧津久井郡地域になかったサービスも増えている。独自の子育て交流会を旧津久井町域で行っている津久井地区社会福祉協議会は「市が歯科衛生士や栄養士を交流会に呼んでくれる。相模原市になってよかったと言う利用者は多い」と話す。
一方で待機児童解消への取り組みは苦戦が続く。少子化で就学前児童数は減少傾向にあるものの、女性の就労増加などから認可保育所への入所申込者は増え続けているためだ。
保育園開設などの努力で、ピークだった10年に514人を数えた待機児童数は年々減少し、14年4月には93人となった。市保育課は「ゼロを目指しているので、減っているからといって、今の数字でいいわけではない」と気を引き締める。
市は今後も、認可保育所の新設による定員増や、市独自の基準を満たした認定保育室の認可保育所への移行など対策を進める。10年度に約8億2千万円だった待機児童対策の予算は、15年度には約13億9500万円に膨らんだ。
ただ、93人の待機児童数は「見かけの数」だ。認定保育室の利用児童や、1園のみを希望した申込者は含まれていない。それらを含めると、認可保育所を希望したが入れなかった人数は8倍超の782人に上る。
今年4月から0歳の娘の認可保育所の入所が決まった女性(30)は、「私は非正規社員だけど、友達の何人かは、正社員でも希望の保育園が全滅。代わりに、遠い保育園や、認定保育室に入るけれど、認定保育室は園庭がないし、仕事をしながらの送り迎えが大変そう」と話す。
市は現在、各区に保育専門相談員を3人配置し、保護者の一人一人に応じた保育サービスの提供を図るが、保護者ニーズと現実との“ミスマッチ”は簡単にはなくならない。
見かけの数にとらわれない、根気のいる対応が求められる。
=おわり
【神奈川新聞】