
横浜市保土ケ谷区の女性(43)は、東京都内の社会福祉法人で介護職の正社員として働いている。この仕事に携わって10年近い。現在、勤務するのは短期入所生活介護(ショートステイ)の施設だ。自宅で介護を受ける高齢者が、短くて1泊2日、長いと1カ月弱を過ごす。毎日異なる利用者が訪れるが、「自宅での生活に近い援助をして、高齢者が自分の家でできていたことを、後退させないことが重要」という。
女性は短大卒業後に生命保険会社に入社。2年ほどで退社し、1年間オーストラリアで働いた。帰国後は主に非正規職に就いた。
携帯電話の代理店に勤務していた時、「両親も年を取るし、高齢化社会だから」とヘルパー2級を取得。実習先の高齢者施設で「ずっと歩き続けている認知症の人がいた。日本にこんな世界があるのか」と衝撃を受けたものの、当時の仕事とは正反対のアナログな世界に魅力を感じた。働きながら介護を学び、2004年末に有料老人ホームに転職。だが、前職と比べ年収は100万円ほど減った。その厳しさもあって一度は別の仕事に就いたが、介護職への思いは強く、また戻ってきた。
働く条件悪化
仕事の厳しさは年々増していると感じる。1カ月に4回ある夜勤は、午後10時から午前7時まで1人で担当する。ナースコールが鳴れば利用者のところに駆け付け、「休み時間はないのと同じ」。職場の制度変更で夜勤明けの日が公休扱いになって終日休める日が減った。「かつてより、働く条件が悪くなっている」と話す。
約7年半働く間に、自費で大学で学び、社会福祉士やケアマネジャーなど主立った資格はすべて取得した。それでも、手取りの月給は20万円を切る。「命を預かっているのに、この金額。でも、ボーナスを含めた年収はほかの職場と比べれば高い方」。資格を生かした転職を考えるが、月給が下がってしまうため、踏み切れない。
利用者がリハビリに取り組んで結果が出たり、「またお世話になるね」と声を掛けられたり。そんな経験が「この仕事が嫌いじゃない」という思いにつながっている。「その人に合った介護は誰にでもできるわけではない」という自負もある。その一方で、「賃金の低さは、やりがいにつけ込まれている」とも感じる。
埋まらぬ格差
昨年6月に閣議決定された「ニッポン1億総活躍プラン」は、他産業との賃金差が人材難の理由と記し、臨時に介護報酬を改定、月額平均1万円ほど上乗せした。だが、全産業平均とはそれでも10万円以上の賃金差が残る。安倍晋三首相は、9月25日の会見で「賃金格差をなくすため、さらなる処遇改善を進める」としたが、財源を含め先行きは不透明だ。
今回の衆院選では介護職の労働条件を含め、「目の前にある問題を、棚上げにしない人に政治家になってほしい」と願う。だが、解散後の混乱した政局からは、そんな空気は感じられなかった。「やっぱり、そんな人はいないんだ」。それが今の率直な気持ちだ。