
横浜市長選告示直前の7月13日。共産党などで構成する市民団体が民進党前市議・伊藤大貴(39)を「市民と野党による共闘候補」と位置付けて開いた集会に、伊藤を擁立した同党代表代行・江田憲司と、共産党書記局長・小池晃が応援に駆け付けた。珍しいツーショットに会場を埋めた1200人が沸いた。
だが盛り上がりが最高潮に達した時だった。壇上で伊藤と手をつなぎかけた小池が、伊藤の硬い表情に気付いてすぐに離れた。聴衆は“共闘”の微妙な距離感を敏感に感じ取った。
「対決構造」足並み乱れ
主催した市民団体「市民の市長をつくる会」は1978年の設立以来ほぼ毎回独自候補を擁立し、共産党が推薦してきたが、今回は国政の流れを受けて共闘にシフト。1月に元衆院議員・長島一由(50)がいち早く名乗りを上げたが、政党の応援がないことなどから共闘候補には難しいと判断し、自主投票とはいえ民進党の一部の支援を受ける伊藤の支持を決めた。
だが「衆院選に向けて国政を変える流れを」と意気込む共産系と「市政課題への政策を訴える」という伊藤の思いは擦れ違った。
共産系は告示直前に確認団体を設立。独自のスケジュールで街宣活動を展開し、「安倍政権が進めようとしているカジノ誘致に反対」などと国政に絡めた主張を繰り返した。
しかし「反カジノ」では同じ主張の長島との違いを出せない。選挙戦後半には伊藤のポスターに「現職・自民VS市民・野党」のシールを張り、長島との違いを打ち出すとともに対決構図の明確化を図った。
伊藤は旧維新系議員らとともに、確認団体とは別行動で街頭演説を展開した。旧維新系議員の中でも、知名度不足で出馬も遅れた伊藤に共産を取り込むことが、組織票効果と出るか、無党派層離れにつながるのか、意見は割れた。
山尾ショック
選挙中の7月23日には、仙台市長選で「野党共闘候補」の民進党前衆院議員・郡和子が初当選。国政の与野党対決構図が地方選挙に波及したと注目された。
だが27日には桜木町駅前で、同党衆院議員の山尾志桜里が自民・公明党と連合神奈川推薦の林文子(71)の応援演説に立つ。写真は「山尾ショック」として会員制交流サイト(SNS)上を駆け巡り、横浜市長選でのねじれた構図を印象付けた。
神奈川大学准教授の大川千寿(政治過程論)は「民進党が統一した見解を出せなかったのは大きい。与野党の対決構図が明確にならず、国政の影響はほぼ出なかった」と分析した。
=敬称略