大和市内の小さな町工場が開発した極薄・高性能の「防音材」200枚が、東日本大震災の被災地・岩手県釜石市に届けられた。被災地の仮設住宅の壁が薄く生活音に悩む世帯があるということを耳にして、古参の職人2人が手掛けた。だが、職人の1人がしばらくして他界。「ものづくりは、世のため人のため」―。その遺志を受け継いだ社員たちがこのほど製品化にこぎ着けた。
開発したのは、素材メーカー、静科(しずか)(大和市深見西)の武紘一・経営企画室長(71)と故高橋邦雄・前社長=享年73。2人は会社の設立者でもある。
得意分野は「ハニカム材」を使った材料の開発。ハニカム材とは、紙などを“ハチの巣”の形にすることで強度を高めた素材。航空機にも使われる。
ただ、同社が着目したのはハニカム材の防音性。「ハチの巣の中に何かの材料を埋めれば騒音が軽減できる」(武室長)と、素材の開発を続け、今や同分野でオンリーワン企業と呼ばれるまでに。東日本高速道路(NEXCO東日本)も騒音対策に同社技術を採用する。社員数は8人に増えた。
武室長と高橋前社長は昨年末、被災地の仮設住宅の現状を知った。「大がかりな工事がいらず、仮設住宅にも取り付けられる防音材を」との思いから開発に着手。1月に200枚を釜石市に寄贈した。
2月1日にパシフィコ横浜(横浜市西区)で開かれた工業技術見本市「テクニカルショウヨコハマ」で、この防音材を公開した。厚さはわずか1・5センチ。防音材としては極薄で軽い。実演では、鳴り響く目覚まし時計を防音材の箱に入れると、途端に音は聞こえにくくなった。ブースには人だかりが絶えなかった。
高橋前社長が心不全で息を引き取ったのは、それから4日後だった。
製品化を指揮した次男の高橋俊二専務(42)は、防音材を「エスプリ」と名付けた。フランス語で精神、心などを意味する。「ものづくりは、世のため人のため」を仕事で示してくれた、亡き父への尊敬の念も込められた。
3月から発売する。初めて世に出す自社ブランドだ。高橋専務は「父が残してくれたもの。頑張って世に広げていきたい」と闘志を燃やしている。
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