
急激な円高が県内製造業を直撃している。輸出採算の悪化は、東日本大震災以降、ようやく持ち直してきた生産現場に水を差す懸念がある。今夏は電力使用制限令が発動され、生産活動の拡大が難しいだけに、海外シフトが進み、産業空洞化に拍車を掛ける恐れも出ている。
「支払いを遅らせてくれないか」。相模原市の機械メーカー社長は、取引先である米国の商社から連絡を受けた。
自動車部品などに用いる金属加工機の製造販売を手掛ける同社。中小メーカーながら世界約20カ国に輸出する。米国では現地商社を通じて営業している。
ただ、せっかく製品が売れても、円高が進めば現地商社側の“取り分”が減る。社長は「商社の支払いを後回しにしても、この先円高が落ち着く保証はない。今は我慢する時期」とこぼす。受注が持ち直している時期だけに、先行き不安はぬぐえない。
輸出量の多い大手企業はなおさら深刻だ。日本自動車工業会の志賀俊之会長(日産自動車・最高執行責任者)は「想定を超える円高。このままでは自動車産業に重大な影響が出る」と警戒する。
日産の場合、対ドルで1円の円高になれば約200億円のマイナス要因となり収益を圧迫する。震災後に崩壊したサプライチェーン(部品供給網)が立ち直りつつある自動車業界。新たな難題として重くのしかかる。
コスト競争力をつけようと、海外生産に力を入れる企業も。板金機械最大手アマダ(伊勢原市)は、来年4月にも米カリフォルニア州で新工場を立ち上げ、レーザー加工機の現地生産に入る。
本年度は1ドル=82円を想定する同社は為替リスクを回避しようとしている。「製品を売る地域で生産した方が最適」(同社)とし、今後は海外生産比率を3割から半分に高める。
日銀横浜支店の市川信幸前支店長は「円高が続けば為替予約していない時期、つまり下期ぐらいに輸出採算の悪化という形で影響する。長期的には、企業の海外進出が加速する心配がある」としている。
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