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ヨロズ会長・志藤昭彦さん
検証・アベノミクス(3)円高是正 業績けん引、高く評価

経済 | 神奈川新聞 | 2016年6月23日(木) 09:42

ヨロズの志藤会長
ヨロズの志藤会長

 格差拡大や限界論がささやかれる一方、成果を実感する声も上がるアベノミクス。特に、日本の基幹産業である自動車業界を中心に、企業業績は好調だった。全国の自動車部品メーカーで組織する日本自動車部品工業会会長に就任したサスペンション部品大手・ヨロズ(横浜市港北区)の志藤昭彦会長(73)に聞いた。

限界と決めつけは早い

 -2016年3月期決算は、自動車業界の好業績が相次いだ。アベノミクスと関係あるか。

 「大いにあり、非常に評価している。アベノミクスは、旧民主党政権時代の過度な円高からの是正に取り組んだ。現在は、国際経済のさまざまな要因も重なり円高に揺り戻されているが、昨年まで続いた円安の効果が(自動車業界)各社の業績を押し上げたことは間違いない。当社でも売上高、営業利益ともに過去最高に達した」

 -一方、国内総生産(GDP)の約6割を占める個人消費は、第2次安倍政権発足以降、低迷している。アベノミクス限界論をどうみるか。

 「経済政策の効果があらゆる方面に行き渡ったかどうかは分からない。だが、とりわけ(12年の政権発足前後の0・8から1・3に転じた)有効求人倍率の改善はみるべきものがある。労働力人口が減少する時代にあって、正規雇用は昨年が26万人増と(リーマン・ショック前の07年以来)8年ぶりに増加した。旧民主党時代と明らかに様変わりしたといえる」

 「なぜ有効求人倍率が重要かというと、雇用や収入の安定こそが経済活動の基礎で大きいからだ。安定雇用や収入の見通しがあってはじめて結婚やマイホーム購入など将来の人生設計を立てやすくなる。(生活する上での)選択肢も少しずつ広がる。このことが、現在は伸び悩んではいるが、マインドで動く個人消費の改善に次第に利いてくる可能性は大いにある。(アベノミクスの)限界を決めつけるには早い」

成長環境づくり最重要

 -実質賃金指数は5年連続のマイナスで、企業業績が現実とリンクしていないようにも思える。

 「大企業が富めば中小企業や地方にも恩恵が行き渡るという『トリクルダウン』の効果だが、すべての企業・業種でという訳ではないのかもしれないが、少なくともわれわれは完成車メーカーの好業績に連動した面はある。そして、われわれが部品の供給を受ける取引先にもそれなりに行き渡っていたという感覚だ」

 「その証左が、長らく考えることもできなかったベースアップが各社で出ていることだ。われわれも14~15年度に2期連続で上昇できた。ただ現実として賃金アップと個人消費が結びついていないのは、過去の不況へのトラウマも大きいだろう。個人消費が上向くには確かに道半ばな面もあるが、土壌は出来つつあると考えている」

 -マイナス金利政策で企業が将来の退職金支払いに備える「退職給付債務」が膨らむという支障が出ている。どう評価するか。

 「借入などで設備投資がしやすくなった。環境としてはウエルカム。設備というのは企業の競争力そのものだ。政策には明暗が当然あろうが、企業は投資によって競争力をつけることでそうしたデメリットを吸収していく考え方を積極的にとっていきたい」

 -成長は必ずしも約束されるものではない。将来への不安感が払しょくされないことが、投資や消費を弱らせていないか。

 「(業界によって)企業業績や賃金が上がっている実感はある。雇用では非正規社員を含む全体でも、正社員のみについても増えている。ここまで回復はきている。何をもって満たされるかは人や企業それぞれ。満たされていないと感じ続ける限り満たされない。上を見ればきりがない」

 「最も重要なのはこれからも企業が業績を伸ばし、成長を続ける環境をつくり続けることだ。経済偏重ではない。そうすることで企業は税金を納められ、税収が年金や福祉、保育園、格差など、多くの人を悩ませる社会問題の解決にあてられるようになる。批判が向けられがちだが、法人税負担が軽減されている意味もそこにある。ただ、内部留保にまわる分には追加の手立てが必要かもしれない」

成長モデル見詰めたい

 -自動車業界は就業人口が529万人で、全体の1割弱に上る。その視座から提言などはあるか。

 「自動車は総合産業だ。クルマの部品には、かねへん(=鉄鋼・金属)やいとへん(=繊維)も使われる。さらに就業する人たちが集う食堂や飲食店、利用するスーパーなどと見ていけば、地域経済に及ぼす影響力は相対的にかなり大きいはず。基幹産業をあらためてもり立ててほしい、という思いは強い」

 「輸出産業なので為替変動の影響はとても大きい。自社の話だが、今期に設定した為替レートは厳しくみて1ドル=105円としたが、今では100円も下回りそうな勢いで円高が進む。まさに『潮目が変わった』衝撃は大きい。われわれは国際政治・経済の流れの中で円が買われることをどうすることもできない。経営として努力をするのは当然だが、政治には、企業の競争力向上をどうするかという政策を考え抜いてほしい。経済がしっかりすれば、福祉もしっかりできるようになる。そうした成長モデルを真剣に描こうとしてるのはどの政党か、そうした観点で今夏の参院選を見詰めたい」

 しどお・あきひこ 1943年横浜市鶴見区生まれ。成田鉄工を経て、68年萬自動車工業(現・ヨロズ)入社。98年社長、2008年会長兼最高経営責任者。全国の自動車部品メーカーで組織する日本自動車部品工業会では03年に副会長、今年から会長に就任した。日本大学経済学部卒。横浜市鶴見区在住。73歳。

 
 

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