旺盛な訪日外国人客(インバウンド)に支えられ県内でも好決算の企業が目立った2016年3月期。ホテルや化粧品、ドラッグストアなど恩恵を受けた業種は多岐にわたる。今期(17年3月期)もその影響は衰えないと期待を寄せる声がある一方、円高や海外経済の減速で先行きが不透明な中、慎重姿勢を崩さない企業もみられる。
県内に路線を持つ大手私鉄各社は、ホテル業を中心にインバウンド需要が顕著だった。
東京急行電鉄(東京都渋谷区)が運営するホテルの外国人比率は全体で28%(対前年で4・6ポイント増)。外国人利用者が約35%を占めた相鉄ホールディングス(横浜市西区)の横浜ベイシェラトンホテル&タワーズは客室単価が12%アップ。同社のホテル業は売上高39・0%増、営業利益65・4%増と大幅な増収増益だった。
小田急電鉄(東京都新宿区)の都心のシティーホテル2施設も活況だった。外国人比率は6~7割で、ともに5ポイント以上増加。小田急百貨店の新宿店の免税売上高も2倍以上増加し収益増に貢献。京浜急行電鉄(同港区)はインバウンドの増加で羽田空港国際線ターミナル駅の乗降客数が前期比約10%アップした。
今期もインバウンド特需は続くのか。「外国人比率の予想はしづらいが、全体のホテルの需給バランスの中でほか(の施設)が埋まってくればこちらに流れてくる」。決算会見の席で、相鉄の後藤亮一経営戦略室部長は期待をにじませた。
化粧品も好調だった。ファンケル(横浜市中区)の16年3月期のインバウンド売り上げは46億円。直営店舗の約17%を占め前期比90%の伸びをみせた。5、6月は韓国で中東呼吸器症候群(MERS)の感染拡大があった影響もあって訪日外国人が多かったといい、売り上げは5月に2・5倍、6月に3倍とアップ。シート状のマスクなどが人気で、8万円以上の高額セット商品もヒットしたという。
ドラッグストア業界も潤った。ココカラファイン(同市港北区)は前期は52店舗だった免税対応店を全体の1割にあたる約150店舗に増やし、既存店ベースで12億5500万円の利益の押し上げ効果があった。中国や韓国の観光客を中心にアイマスクや流行メーカーの商品が好調だったという。オフィス家具大手の岡村製作所(同市西区)も恩恵を受けた社の一つ。ドラッグストアの改装が伸びたこともプラスに働き、土志田貞一常務は「インバウンドは陰りがみえるともいわれるが、現場では改装の需要が旺盛で減速の印象はない」と今期にも手応えをのぞかせる。
一方で、円高や中国経済の減速でインバウンドの影響は長続きしないのでは、と慎重な声も聞かれる。
今期のインバウンド需要は前期並みと予想するファンケルの島田和幸取締役専務執行役員は「過度に期待したくない」と明言。景気減速に加え、来日の目的が買い物に限らない「モノからコト」へシフトしており、高額品の販売減に伴い客単価が落ち着くとみるからだ。
小田急も百貨店の消費動向を踏まえ「宝飾品のような高額品から食料品などの消耗品に移行している」(山本俊郎常務)。足元では円高の影響はダイレクトに出ていないというが、買い上げ金額が伸び悩む傾向にあると指摘する。
過去最高の営業利益を更新したココカラファインも冷静だ。「円高は客単価の減少に影響する。依然チャンスは多いが、前期ほどの伸びは見込んでいない」。27日に決算会見を開いた塚本厚志社長は、足元では観光客需要は活発としつつ、インバウンドに依存した計画は立てていないとした。