
140年近い歴史を持つ横浜・元町のオリジナルバッグブランド「キタムラ」。この春から「ヨコハマベイサイドファッション」として、バッグに靴やワンピースを組み合わせたファッションを提案するなど、幅広い事業を展開する。10月には、服や靴の専門店をつくる計画もある。5代目経営者の北村宏社長(68)に戦略を聞いた。
-トータルファッション事業に乗り出す狙いは。
「常にメニューチェンジをしていかないと、今の世の中遅れてしまう。ファストフードの浸透でバッグに弁当を入れずに済む、カード時代がくるから財布もいらなくなる-。20年以上前から、ハンドバッグの需要は減ると予想していた。それに加え、日本のファッションは楽な方にとカジュアル化が進んでいる。革のバッグも月に数回使うかどうかという時代だ。時代とともに変わることをためらってはいけない。10月に服や靴の専門店をつくる予定だ」
「うちのバッグを売るにはそれに合ったワンピースが必要。カジュアルなファッションにうちのハンドバッグは合わない。だから服をつくる。この春そごう横浜店と手を組み、共同でコーディネートを提案した。特に20~30代の女性に評判がいい。クオリティーの高い日本の良質なファッションをオンラインで海外に向けて販売するのも面白い」
-キタムラの目指す姿は。
「会社の野望なんてものは今はあまりない。『キタムラのバッグや服を使っていてよかった』と感じてくれる人が1人でもいればそれで十分。キタムラを発展させるには、元町や横浜を発展させることが重要。会社経営にとどまらず横浜をいかに盛り上げるか、さまざまな仕掛けを打ち出すことに力を入れている」
「はやりのインバウンド(訪日外国人客)の取り込みには否定的だ。台風みたいに一瞬で過ぎ去ることに注力するのは間違っている。もっと年間を通して横浜を楽しんでもらう、その視点が必要。その一つが横浜スタイルであり、横浜のファッションだ。瞬間的な売り上げはいらない」
-キタムラの強みや期待することは。
「キタムラは全国で34店舗を展開している。若手スタッフの発案で海老名や厚木のサービスエリアにも出店した。通常のキタムラの客層とは少し違うとはじめは半信半疑だったが、ここでの販売がすごく好調。トラックの運転手が数万円のビジネスバッグを買うことも。生きのいい若手が新しい発想を出してくるのは最高にうれしいこと。『北村宏の会社じゃない。スタッフみんなの会社だ』と常日頃言っている」
「キタムラの強みは長きにわたるお客さまとの信頼関係。トータルファッション事業は過去にもトライし、億単位の失敗をしたこともある。会社が苦しいときも救ってくれたのはほかでもないお客さまたち。お客さまに喜んでもらいたいというものづくりの基本コンセプトは変わらず、新しいことに果敢に挑戦していく」
きたむら・ひろし 1882(明治15)年創業の「キタムラ」の5代目経営者。1947年生まれ。68年キタムラ入社。94年から現職。