
信号機大手、京三製作所(横浜市鶴見区)は野村総合研究所(NRI、東京都)と共同で、今夏ごろからロシアの首都モスクワ市の交通渋滞解消に向けた現地での実証事業に着手する。慢性的な交通渋滞に悩む同市は信号システムを含む交通インフラの刷新を目指しており、同製作所は今回の実証で使われる自社の高度信号システム「アルテミス」の同国での受注につなげたい考えだ。
同市が対策に乗り出す動きをとらえたNRIと同製作所が、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO、川崎市幸区)の公募に共同で手を挙げたのが発端。2014年に採択され、昨年末にNEDOとモスクワ市交通管制センターが協定を結んだことで事態が進展し、実証実験の着手の段階にこぎ着けた。
アルテミスは、信号制御機間でリアルタイムで車の混み具合などの情報を収集し、交差点に流入する交通量を予測するシステム。さらに最適な青信号時間を算出して信号サイクルを制御することで、信号待ちの時間の最小化を図るのが特長だ。
実証実験では、アルテミスのシステムをモスクワ市内の道路2キロ内の連続する交差点5カ所に設置し、年間を通じての交通渋滞解消効果を見る。
同市では近年の経済発展に伴い、市内を走る自動車が急増した一方、交通インフラの整備が追い付いていないという。事業の事前評価などで現地を訪れたNEDO担当者も「朝は中心部、夕方は郊外に向かって過度な自然渋滞が発生。その間は市内でも移動が困難に感じられた」と振り返った。
慢性化した交通渋滞は同市に限らず、経済活動の阻害要因とされている。その解消は地域経済の活性化だけでなく、省エネルギーや温室効果ガス削減など環境面からも期待されるテーマ。同製作所ではこれまでにもアルテミスの設置場所の選定や関係機器の準備作業を進め、NRIも現地の市場調査などでサポートしてきたという。
「アルテミスを国際社会に知ってもらえる大きなチャンスになる」と力を込めるのは同製作所の担当者。「クルマの流れを自律的に分散制御する」アルテミスは、国内での導入実績はあるが海外ではまだない。
京三製作所は「モスクワ市での導入の実現に向けて新たな段階に進むことができた。これを足掛かりに導入につなげられれば、ロシア全土でも地域展開できる可能性も出てくる。技術の力で都市交通問題の解決策を世界に提示していきたい」と語った。