国内電機大手8社の一角、三菱電機。その情報通信技術(ICT)の主要開発拠点が鎌倉市大船にある情報技術総合研究所だ。近年注目されている、モノがインターネットでつながるIoT技術など、将来の暮らしや働き方を変える技術研究に取り組む最前線でもある。昨春就任した中川路哲男所長に、現状や今後の展望を聞いた。
-今春で就任1年。どんな問題意識を掲げて取り組んでいるか。
「かつては既に生み出された技術を改良して発展させるスタイルだったが、今は従来品の延長線上にない、賢くて使いやすい新技術を生み出すことが求められる。『こんなものがあればいいな』というユーザーの気持ちも考えながらターゲットを決め、技術革新で(競合他社に)リードする思いで取り組んでいる」
「当社は積極的なグローバル展開を進めている。そのため、海外ユーザーにも親和性が高いICTを研究所から送り出せれば、と考える。世界を意識したニーズやコスト感覚も重視し、研究開発にあたっている」
-具体的にどんなテーマに取り組んでいるか。
「例えば当社は従来、工場のIT化に取り組んできたが、さらに進化させ、人工知能(AI)の活用で工場をもっと賢くするというのがテーマの一つ。IoTの仕組みを工場に導入し、工作機械やラインの稼働状況を見える化する。その上でどうすれば効率が高まるか、コスト削減できるかなどをAIが分析し、必要な指示を出す。次世代のものづくり現場、スマートファクトリーを想定した技術でもある」
-スマートファクトリーもそうだがIoTが多くの分野で注目されている。どんな視点で取り組むか。
「ものづくり現場から日常生活までIoTへの転換で便利になることがさまざま期待される一方、あらゆるモノが通信につながることでウイルスなどのリスクも生じる。研究所では長年、情報セキュリティーに特に力を入れており、携帯電話などで世界的に採用されている『MISTY』と呼ばれる自社の暗号技術も生み出した。世の中の役に立つIoT自体の研究に加え、そのセキュリティーにも注力し情報・通信の安全を支えていく」
-自動運転技術などクルマ分野での取り組みは。
「クルマの知能化ということでAIの活用などで人とクルマがより意思疎通を深くしながら、自動運転も含め、より安全な走りを実現するということを軸に追求する。さらにIoT全般とも共通するが、知能化・高度化したクルマをセキュリティーで守っていくというミッションの研究開発も同時に進めていく」
-2016年の抱負は。
「IoTやクルマの高度化でもまさに世の中でICTの進化の必要性、重要性が高まっている。各社との競争も激しいが、それだけ活躍の場が広がっていると捉えて研究にあたり、成果に結びつけたい。そのためには、大学や他の機関など社内外の組織との連携・交流なども積極的に生かしながら、共に創り上げる『共創』という発想を重視している」
なかかわじ・てつお 1983年、三菱電機入社。2004年情報技術総合研究所ネットワークセキュリティ技術部部長、09年本社・開発業務部部長、12年同・IT戦略室室長、15年4月から現職。大阪府出身、東京大学卒、57歳。