景気回復がうたわれる県内経済。日銀横浜支店の岩崎淳支店長に環太平洋連携協定(TPP)や消費増税に伴う軽減税率の影響などを聞いた
-2015年の県内経済をどう総括するか。16年の展望、特に注目する点は。
「企業の収益が良く、雇用や所得といった個人レベルの環境も良好で、全体的に堅調な一年だった。足元は良く、さらに先を見れば五輪を節目に横浜駅西口の再開発など多くのプロジェクトが動く。目に見えて動きを実感できれば、心理的効果が期待できる」
「注目するのは預金の伸び。ベアや賞与の増額で収入は増えているが、それ以上に預金が増えているのは先行きに不安があり、消費に回さず将来に備えているのだろう。賃金上昇などが消費に回れば景気をより進める力になる。慎重姿勢を解きほぐすことが重要だ」
-懸念材料は。
「国内ではあまり見当たらない。海外をみると、米国の利上げは景気の良さを反映したものだ。中国は確かに減速していると思われるが、経済構造が製造業中心からサービス産業中心に変化する過程にあり、従来重視されていた指標だけを見ていると見誤る。中国政府が取り得る金融・財政政策には余裕があり、それほど心配していない。ただし、内需型の経済で輸入などは増加しにくいため、他国は中国経済の成長を実感しづらくなる」
「また、原油など資源価格の下落や米国の利上げで、資金の流れが新興国から先進国、米国へと変わっている。どこかで債務返済が滞るなど摩擦的なイベントが起きる可能性はある」
-TPPの影響は。
「投資やモノの流れについて共通ルールができた意義は大きい。人口減の中で企業は海外に目を向けている。ただ、チャンスも生かさなければ意味がない。新たな環境にどれだけ適応できるかがポイントになる」
「製造業に限らず、非製造業にもチャンスだ。システムやサービスの提供という点では鉄道などのインフラもその一環といえる。一方で神奈川はインバウンド(訪日外国人客)で多くの恩恵を受けているわけではない。ただ、羽田空港に近く、横浜を入り口に観光する外国人客を呼び込むポテンシャルはある」
-17年4月に消費税が再増税され、10%になる。軽減税率も導入されるが。
「今回の上げ幅は2%分で軽減税率もある。10%への引き上げを見越して前回駆け込みで購入した人もいる。前回ほどの駆け込み需要とその反動減はないだろう」
「消費税が上がれば年金生活者や低所得者には打撃となる。一方で消費税は社会保障の財源とされており、軽減税率で必要な財源を確保できなくなれば、将来的な社会保障は大丈夫かと不安を惹起しかねない。社会保障の財源をどう確保するかが鍵になる」
いわさき・じゅん 1987年日銀入行。国際局調査役、ワシントン事務所長、金融市場局企画役、金融機構局参事役、国際課長、大分支店長などを経て2014年6月から現職。52歳。早稲田大卒。愛媛県出身。