日銀が15日に発表した企業短期経済観測調査(短観)で、意外性のある数値が示された。好況が伝えられていた大企業製造業で、企業の景況感を示す業況判断指数が2四半期ぶりに悪化した。原材料高への懸念といった、円安のマイナス面が強調された結果と映る。
製造業大手は、輸出で収益が改善し業績が堅調のように見える。しかし、それは販売が好調で数量が増えているからではなく、単に円安が進んで円換算での価格が上がったにすぎない。自動車を中心に、大幅な業績回復を見せているのにもかかわらず、生産調整が長引いているのはこのためだ。
しかも相場の動きは急だ。1ドル=120円に至るのに、わずか1カ月で10円もの急落となった。帝国データバンクによると、安倍政権の2年間で為替レートは44%下落。特にことしは1973年の変動相場制移行から最も速い円安進行だった。企業心理が慎重になるのも無理はない。
このところの原油安も不安材料になっている。原油価格の下落は本来、多くの業種で歓迎されるはずだが、こちらも値動きがあまりにも速く、世界的な株安として表出している。急速な市場環境の変化は将来への不透明感につながる。
本当の意味での景気回復は、例えば製造業でいえば、大手の生産が伸びていくことで、下流にある中小にも仕事が回るという構図だろう。現状は大手の業績は好調でも、中小に波及する材料に乏しい。株価の上昇でも同じようなことを指摘することができる。
今回の短観では、企業の規模、業種を問わず、3カ月後を示す先行き指数が軒並み悪化しているのが特徴的だ。10月末の日銀の追加金融緩和は市場関係者には「サプライズ」と受け止められたが、一般企業は警戒感を緩めていない。
急な総選挙があり、行政の遅れを取り戻すために日程は厳しい。円安対策を中心にした経済対策や15年度税制大綱を年内にまとめ、年明けにも14年度補正予算案と15年度予算案を閣議決定する。
アベノミクスはその性質上、円安への誘導が意図的だ。であるなら、輸出企業の業績回復といった肯定的な面を強調するだけでなく、資材費高騰などの副作用にもきちんと向き合い、手当てすることが必要だ。実効性のある施策が待たれる。
【神奈川新聞】