横浜銀行が東日本銀行との経営統合で基本合意に達した。都内で開いた会見でいずれも財務省出身の寺澤辰麿、石井道遠両頭取は、近隣同士で得意分野を補完し合える関係であることをアピールし、当局主導の統合との見方を“一蹴”。また、地銀最大手の統合ニュースに県内の金融機関に驚きや危機感が広がった。
約70人の報道陣が集まった東京都千代田区大手町の会見場。寺澤頭取は冒頭のあいさつで「(頭取)2人が財務省出身だったことで、(地銀再編を進める)当局の意向が働いて経営統合になったのではないかという記事が多く見られたが、まったく事実ではない」と述べ、今春から両行が事務レベルでの議論を積み重ねてきたことを明らかにした。
昨年から石井頭取は「良い補完関係ができる相手がいたら前向き、積極的に(統合を)考えていく必要がある」などと公言していたといい、今春に寺澤頭取が各地銀を回った際、2人の間で両行の統合をケーススタディーなどで検討してみる話が出たという。
石井頭取は「金融庁に何か言われて協議したことではまったくない」とした上で、「頭取同士が財務省出身で、意思疎通が多少スムーズにできる面はもちろんあるが、決め手ではない。近隣行として話が始まり、事務的に検討した結果、効果が見込め、持ち株会社であれば個性も殺されないということで合意に至った」などと経緯を説明した。
会見では、統合後は横浜銀行東京支店が入居予定の東京・日本橋の再開発ビルに持ち株会社の本社を置くことや、都内での出店に力を入れる方針も明らかにされた。
県内企業からは、今後のサポート体制を不安視する声も出ているが、寺澤頭取は「主たる営業拠点は神奈川で、経営統合によって神奈川をおろそかにすることはない。神奈川は神奈川で成長させないといけない。その上で東京という成長を期待できるところにも注力するということだ」などと明言した。
◇県内金融機関 危機感や驚き相次ぐ
業界内で、今回の経営統合を「サプライズだった」と評したのは、相模原を中心に県内にも地盤を持つ八千代銀行の高橋一之取締役会長。一足先に10月に発足した東京TYフィナンシャルグループ取締役でもあり、「われわれもうかうかしていられない。(東京都民銀行との)統合協議では考え方に違いはあったが、今は同じ船に乗り、ましてや後ろから大型船も来ているので必死にこがなければ」と危機感を示す。
有力な地銀グループが都内に攻め込んでくる形になるが、「規模は横浜銀が圧倒的に強くても、都内の店舗数はわれわれの方が倍ぐらいある。そこを生かしていきたい」と強調した。
横浜銀OBが代々、頭取を務めるなど関係が深い神奈川銀行の藤井秀樹常務取締役は「新聞で初めて知って驚いた。そういう(再編の)時代が来ているのだと感じた」と打ち明ける。浜銀TT証券との提携に乗りだすなど横浜銀グループとの連携を強めていただけに、「横浜銀は協調している相手。今後もウィンウィンの関係を続けていきたい」と話す。
再編の流れは九州などにも広がっているものの、藤井常務は「すでに人口が減っている地域もある中、神奈川は企業を含めた顧客数が極端に減るわけではなく、単独でこの地盤でやっていける」と力を込めた。
県内の有力信用金庫も、横浜銀とは各地域でライバル関係にある。横浜信用金庫の谷藤光晴常務理事は「統合後は神奈川に全力投球するというより、少しずつ東京や関東一円に営業エリアを広げていく可能性が高く、うちに影響があるとは考えていない」と断言。今後は「横浜」だけを掲げる唯一の金融機関になることから、「原点に返り、地域を深掘りして、横浜信金の存在価値を高めていきたい」と訴えた。
川崎信用金庫の美濃部彰常務理事は「今までも川崎で(横浜銀と)競合しており、統合してもうちがスタンスを変えることはない」と静観の姿勢だ。
その上で地銀再編が進み始めたことに対し、「信金は地域の広がりでは弱点があり、問題意識がないわけではない」と明かし、「近年は県内8信金で合同商談会を開いたり、顧客のために隣り合う信金が情報交換を積極的に進めている。ただ、それが即、統合に結びつくような状況ではない」と話した。
【神奈川新聞】