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難病医療法成立 日本難病・疾病団体協議会 水谷幸司事務局長に聞く

経済 | 神奈川新聞 | 2014年9月18日(木) 10:00

水谷幸司(みずたに・こうじ) 日本福祉大社会福祉学部卒。全国心臓病の子どもを守る会事務局次長など歴任。2010年5月から現職
水谷幸司(みずたに・こうじ) 日本福祉大社会福祉学部卒。全国心臓病の子どもを守る会事務局次長など歴任。2010年5月から現職

◇医療費助成や社会的支援の充実 総合対策への第一歩

原因が不明で治療法も未確立な希少疾患の患者に対し、総合的な支援策を実施する「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」がことし5月、成立した。要綱に基づく救済策が始まって実に42年、ようやく法的根拠を持つ社会保障制度として総合対策がスタートする。施策展開に当たっては医療費助成だけでなく患者の就労・就学を通じた社会参加、地域との共生も課題となる。難病や長期慢性疾患の患者団体(約30万人)で構成する日本難病・疾病団体協議会の水谷幸司事務局長に法制化の意義や具体化へ向けた取り組みを聞いた。

-患者団体は1980年代から総合的な対策の実現を国に求めてきた。難病法成立の意義をどう捉えるか。

「法的根拠を持つことで医療費助成の対象が大幅に広がるとともに医療、福祉、介護、就労、教育といった総合対策の充実、拡大が期待される。難病対策は統一的な法律がないため自治体間で格差があったが、法施行によって公平性が担保されることになる。ただ、法制定はゴールではなく、積み残した課題もあり、よりよい制度の実現へ向けた第一歩。難病法を総合的な対策として開花させるためには、患者に寄り添った地域レベルでの取り組みが一層重要になる」

-要綱に基づく従来の対策との違いは。

「難病対策は薬害スモン患者の救済を契機に72年、要綱が策定され医療費助成などが定められたが、あくまで治療研究のための事業という位置付け。小児慢性特定疾患対策についても児童福祉法に位置付けられたが、義務規定にはなっていなかった。難病法の成立によって、医療費助成が義務的な社会保障給付として安定して実施されるようになる。そもそも『難病』とは疾患名ではなく、治りにくい、生きづらいといった社会通念上の概念の総称だ。法的に定義されたことで難病に対する社会的な理解、認識が広がることが期待される」

「難病法では基本理念として患者の社会参加の機会確保、地域社会において尊厳を保持しつつ他の人々との共生を支援することがうたわれている。これは社会保障制度としての位置付けにとどまらず、障害者福祉、就労・雇用保障、障害年金制度といった社会福祉と広く有機的に結び付くことを意味する。難病は症状もさまざまで、外形的には患者だと分かりにくいケースも多い。法律に基づく制度を運用しながら、社会的生活の支援や療養環境の整備も含め対策を充実、改善していくのが大切だと考える」

-来年1月の法施行へ向け厚生労働省は現在、難病法に対するパブリックコメントを実施している。残された課題や改善点は。

「法的支援の対象は原因不明で治療法のない希少疾患だが、比較的症例の多い難治性疾患患者への医療費助成をどうするのか。必要であれば新たな疾患対策の創設も検討すべきだろう。また、重症、長期慢性疾患の患者にとって有効、安全であっても高額な薬代の負担は重い。経済的負担の軽減策の充実も今後の課題と認識している」

「難病や長期慢性疾患の子どもについては、成人期以降の社会的支援策の実現や充実した学校生活を送れるようにしたり、自立を支援したりする取り組みも求められる。法制定を機に治療法開発が促進するよう期待している。重症化予防・早期診断・早期治療の実現へ向けた医療体制の構築によって、総医療費の軽減にもつながる」

-国は新しい医療技術の研究開発を促進する新たな独立行政法人・日本医療研究開発機構の重点事業の一つに「難病克服プロジェクト」を位置付けた。

「国が難病治療の開発を重視すること自体は歓迎したい。一方で、新独法のプロジェクトは人工多能性幹細胞(iPS細胞)を活用した画期的な治療法の実現といった最先端の研究開発の実用化を進める性格が強いのではないか。現在、日本では500疾病群程度の難病があるとされているが、それぞれの病気の発症原因を解明するためには、何より息の長い基礎研究が重要だ。そうした地道な取り組みにも予算が行き渡るような研究費の配分が必要だ」

-基本理念である難病患者の社会参加、地域社会での共生を具体化する上で課題は何か。特に就労・雇用をめぐっては、企業や社会の側に病気への理解が必要となる。

「難病患者の就労は依然として難しい状況にある。障害者雇用と異なり法定雇用率制度が定められていないことも背景の一つだと認識している。また、これまでは難病が法的に定義されていなかったため、企業側にとって雇用の根拠が明確でなかったことも一因だ。実際に就労する場合、通院の保障や緊急時への対応など疾患の特性と症状に応じた勤務形態が必要となるが、受け入れる側の理解が進んでいないのが実情だ。就職しても難病患者自ら退職せざるを得ないケースも少なくない。こうした状況を踏まえ、法施行を機に協議会として就労支援の充実・強化を国や企業に一層働き掛けていきたい。何より難病を知り、理解してもらうことが大切だ」

-実効性のある制度とするために、今後どのような活動を展開していくのか。

「患者団体は病気を正しく知り、病気と向き合い克服する気概を養い、安心して生活するための環境を整備する役割を担っている。今後、地域の保健所が中心となって都道府県単位で難病対策地域協議会が設置されるが、患者の代表として参画し、自治体の施策に患者の実態と意見を反映させていきたい。生まれたばかりの難病法を患者の実態を踏まえ大きく育てていくことが大事だと思っている」

〈難病法成立による医療助成対象の拡大〉

医療費助成対象は現行の56疾患から約300疾患(約150万人)に2段階で拡大する。厚生労働省は来年1月に助成を先行実施する110疾患(約120万人)を指定。秋以降に残りの約190疾患を選定し来年夏以降の助成開始を予定している。先行指定されたのは、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)など従来も助成対象だった難病のほか、血尿などを起こし腎不全につながるIgA腎症など。

また、厚労省の専門委員会は子どもの難病「小児慢性特定疾患」にダウン症や先天性風疹症候群など107疾患を追加する方針。対象は計705疾患となる。患者は現在の約11万人から約15万人に増える。パブリックコメントを経て改正児童福祉法が施行される来年1月に助成を始める。

新たに助成対象となるのは、先天性横隔膜ヘルニアなどの呼吸器疾患、全身性エリテマトーデスなどの膠原(こうげん)病、デュシェンヌ型筋ジストロフィーや先天性風疹症候群などの神経・筋疾患、潰瘍性大腸炎などの消化器疾患、ダウン症などの先天異常症など。

【神奈川新聞】

 
 

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