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上海で奮闘 県内企業(上)人手不足、人件費高騰… 反日だけでないリスク

経済 | 神奈川新聞 | 2014年7月13日(日) 12:00

上海市内の工場を見回る上海高井精器の高井総経理
上海市内の工場を見回る上海高井精器の高井総経理

「世界の工場」から、車だけで年2千万台売れる「世界最大の市場」へと劇的に変化してきた中国。さまざまなチャイナリスクが指摘されるが、日本企業も逃げ出すわけにはいかない。自由貿易試験区が昨年スタートし、他都市に先駆けて金融の自由化も進む上海で奮闘する県内企業を取材すると、直面しているのは反日リスクだけではなかった。

上海都心部から高速道路を飛ばして1時間弱。上海松江工業区に向かった。1992年に開発が始まり、外国資本を呼び込んできた上海郊外の工業団地だが、ベッドタウンのような雰囲気も感じる。近年は宅地開発が進み、大気汚染が深刻なこともあって、政府の方針転換ですでに地方へ移転させられた工場もあるらしい。

精密機器メーカーの高井精器(藤沢市)は94年に進出し、自動車やパソコンなどに使われる精密部品を製造し、大手ベアリングメーカーに納めてきた。

「ここも数年前から立ち退きのうわさが流れているんです。病院が建つ計画があるみたいで」。出迎えてくれたのは、上海高井精器の高井麻人総経理(49)だ(総経理は日本の社長に相当)。中国では過去、都市計画の変更を理由に、進出から数年で突然の工場移転を迫られた企業もあるという。国有地を契約しても、日本的な常識は通用しないのだろう。

気になっていた2012年の尖閣問題の影響を尋ねると、「日本の報道はすごかったようですが、こっちにいる者とすれば事実じゃないですよ」と笑われてしまった。同工業区の約4割を日本企業が占め、反日運動の格好のターゲットかと思いきや、門前に掲げた日の丸を下ろした程度だったという。

むしろ、反日よりも切実な問題として、人手不足と人件費高騰の悪循環を挙げた。上海などの生活費が高騰し、賃上げしても都市部で働くメリットが小さくなり、出稼ぎの若者が減っている。進出当時は手取り月800元(現レートで約1万3千円)だった労働者の月給が今では2500元。高井総経理は「時給が1元でも高ければ、そっちに移る」とこぼした。

リーマン・ショック以後、人民元高も相まって業績は厳しい。ここ数年は賃上げも抑え気味で、中国人の方諍副総経理(59)は「不満がないことはないと思う」と遠回しに現場の声を教えてくれた。業績連動の昇給やボーナスは、中国ではまだ理解されない。高井総経理は「もうこういう時代なんだと覚えてもらわないと」と力を込めた。

神奈川県の倍以上の面積という上海市はとにかく広い。渋滞の中、日本企業が増えているという漕河ケイ開発区に向かう。移動に使った中韓合弁メーカーの車は、後部座席の窓が一切開かない仕様だった。新興国市場の需要に合わせた製品とはこういうことかと驚く。

「チャンスを与えてくれた本社の社長に感謝しています」。電気設備の商社、大江電機(横浜市南区)の現地法人の田潔馨総経理(42)は中国人女性だった。「政府の指導は赤字でなければ毎年昇給ですね。赤字でも昇給している企業が多いです」。賃金問題は非製造業でも同じようだ。

中国で大学卒業後、政府系の中国聯合通信に就職したが、富士通への研修に出て日本を知り、留学を決めた。横浜国大大学院に通っていたとき、電車の窓から見えていたのが大江電機の本社。入社2年目には上海の総経理に抜てきされた。

日系企業経営者であることを、友人にはどう思われているのか。「チャンスをもらえた私をうらやましがるかもしれない。昔の戦争には抵抗があっても、日本製品は好きだし、日本を旅行する人も増え、日本に抵抗感はないと思う」

取材の後、近くの中華料理店でランチを共にした。昨年、長女を出産し3カ月ほど休んでいたが、今は両親が面倒を見ているという。

田総経理は夫婦ともにきょうだいがいる。「残念ですが、2人目は産めません」。1979年から続く一人っ子政策。少子化は日本以上に深刻で、経済成長の足かせになるとみられている。

◆「チャンスを過小評価」 横浜銀行上海支店・加藤隆支店長 横浜銀行上海支店の加藤隆支店長(51)に、反日リスクや中国経済の展望などを聞いた。

-4月から人民元建て法人向け融資などを始めた。

「人民元は悲願だった。10年以上前に日本企業の中国進出ブームがあり、海外に輸出する加工貿易という形で伸びてきたが、人件費高騰などで成り立たなくなってきた。今は中国の内需に注目し、生産だけでなく、仕入れも販売も中国が中心になり、日本企業が求める通貨が円やドルから人民元にシフトしている」

-取引先の県内中小企業などは中国に1200社、現地法人ベースでは2100社が進出している。

「ここ数年の新規進出は活発でない。製造業が圧倒的に多く、第3次産業が注目されつつ、上海などではマーケットも成熟し、二の足を踏む中小企業が多い」

-中国での事業展開にはリスクがつきまとう。

「尖閣問題前と後ではビジネス環境の雰囲気が、がらりと変わり、出にくい国になってしまった。だが中国で働く日本人は皆、日本で見聞きした中国と実際の中国が違うと言う。報道も偏っているのでは。反日感情は根強いと思うが、リスクが強調され、チャンスが過小評価されている」

-中国の金融自由化の流れをどう見るか。

「シャドーバンキングの問題が言われているものの、銀行が果たす役割は大きい。現状では融資金利が自由化されたが、仕入れの預金金利が規制されている以上は限界がある。ただ、速いスピードで自由化を進めると言っているので、影響は出てくると思う」

-今後の中国経済は。

「成長率は下がるだろうが、年7・5%程度でも毎年、韓国1国分の市場規模が拡大しているとも言われる。世界で一番車を造り、一番売れる地位は当分、揺るがない。金融をはじめ(政府の)コントロールは強く、その結果、中国経済が発展してきた面があるし、(バブル崩壊などの)ハードランディングは考えられない。まだまだ外資の力も必要で、日本企業にチャンスはある」

【神奈川新聞】

 
 

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