農業の成長産業化を目指し、安倍政権が促してきた改革へ向けた論議が大詰めを迎えている。
焦点とされてきたのが農協の集中改革策である。政府の規制改革会議が全国農業協同組合中央会(JA全中)の廃止を提言したことがきっかけだ。同会議は与党からの提言も踏まえ、近日中に答申をまとめる。
改革をめぐる反響の大きさはJA全中の影響力の大きさの裏返しでもあろう。答申や政府方針などにおいて、「廃止か存続か」といった二者択一の単純な選択は許されまい。
全国組織として不採算地域もカバーしてきた互助的な役割に、あらためて視線を向けるべきだろう。JA全中の廃止は暴論だ。地域の農業従事者を支えていくために何が必要かという視点を最優先に、組織や制度の改革を進めてほしい。
規制改革会議がJA全中に矛先を向ける理由の一つに、その権限の強さがある。農協法に基づく指導権限により、全国約700の地域農協を統括できるなどの点だ。これが地域に応じた農協サービスの展開を困難にし、農家の創意工夫の芽を摘んでいるという論理である。
「創意工夫を阻む」との指摘があるのなら、そうした具体例の集約と検証が不可欠だ。障害が生じていたとするならば、それは制度上の不備が原因となっているのか、対応者の判断に問題があるのか、という仕分けも必要であろう。
地域農協の権限を強化して経営の自由度を増すことは、特色ある国づくりのためにも有効であろう。JA全中にも真剣に検討してもらいたい課題である。
一方で高齢化や過疎化などに悩む地域の農協には全国の営農者が手を差し伸べなければなるまい。仮にJA全中を廃止した後に、その仲介やまとめ役をどこが担うのだろうか。
JA全中の廃止論は環太平洋連携協定(TPP)の交渉が大詰めになる中で浮上した。よもやJAをけん制し、交渉を円滑化するために政治日程を合わせたのではあるまい。協議のプロセスへも疑問の目が向けられかねない。
安倍晋三首相は「決める政治」を掲げるが、「決めた後の政治」も念頭に置くべきだ。問われているのは日本の食糧安保の行方である。新規営農者を増やすことも必要だろうが、これまで日本の食卓を支えてきた営農者も大切にしたい。
【神奈川新聞】