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国家戦略の現場:医療や余暇 連携が鍵

経済 | 神奈川新聞 | 2014年6月2日(月) 10:36

羽田空港(中央)の対岸に広がる京浜臨海部。自治体間の連携が特区成功の鍵を握る
羽田空港(中央)の対岸に広がる京浜臨海部。自治体間の連携が特区成功の鍵を握る

いすゞ自動車の工場移転から10年、川崎臨海部・殿町3丁目地区では医療産業特区の形成が進み、生活の利便やレクリエーション機能までを備えたまちづくりを展開する段階に入った。長年の懸案だった羽田空港との連絡道路も整備のめどが立ち、対岸の東京都大田区側との役割分担によるエリアの一体化、連携強化が課題になる。40ヘクタールもの更地から一変しつつある同地区の現状を報告する。

5月に川崎市が発表した住宅・建設業界最大手、大和ハウス工業の同地区への進出。地元関係者は遊休地対策に端を発した同地区のプロジェクトが「点から面の開発に移行した」とみる。

大和ハウスが手掛ける地区の区画は約4万6千平方メートル。地区内公募区画では最大規模だ。一戸建て・賃貸住宅から商業、レクリエーション施設、福祉・介護、ロボット事業までを手掛ける民間デベロッパーの参入が着実に進むまちづくりの歩みを教えてくれる。

そして、政府が建設の方針を固めた羽田空港と直結する連絡道路。川崎臨海部活性化に取り組んできた同市の三浦淳副市長は「単に遊休地を埋めるのではなく、医療分野の基礎研究から臨床、安全性・有効性の評価、事業化までを地区内で実施できるよう、誘致対象を絞り込んだ。(利便性を高める)連絡道路も加わり、革新的医薬品、医療機器の開発に必要なすべての機能がそろうことになる」と同地区の優位性を強調する。

■衰退と転機

いすゞが同地区で戦前から操業していた工場を閉鎖したのは2004年のことだ。跡地は都市再生機構(UR)と家電量販店のヨドバシカメラに売却。10年からURと川崎市による土地区画整理事業が開始された。

川崎臨海部で工場閉鎖・流出に拍車が掛かったのは1990年代半ばから。県庁で京浜臨海部再生の政策立案に携わった古尾谷光男元副知事は「当時、規制緩和によって工場がマンションに変わっていく光景は重厚長大産業の衰退を象徴していた。手をこまねいていれば、工業都市、産業立県の基盤を揺るがすことになりかねない。産業構造の転換が県と川崎、横浜両市の共通の政策課題になった」と振り返る。

工場跡地がマンション、大型スーパー、葬祭場に変わっていく中で、いすゞの工場跡地は産業空洞化の現実を映し出していた。

長期低迷の局面を大きく変えたのは羽田空港の再国際化だ。

2003年6月、国と首都圏7都県市との協議会の場で国土交通省が国際定期便の就航を提案した。臨海部の空洞化に頭を痛めていた各首長はその案にすぐさま歓迎の意を表明した。空港再拡張事業に県と横浜、川崎市は国への資金協力を決定。3者はかねて空港連絡道路を核にした「神奈川口構想」を掲げており、「資金協力は構想実現との引き換えという性格が強かった」と関係自治体幹部は振り返る。

■近づく始動

だが、連絡道路については東京都大田区が強く反発。構想は事実上、立ち消え状態に。では、なぜ連絡道路が宙に浮いたまま殿町3丁目地区の企業・研究機関誘致は成功したのか-。

川崎市幹部は、実験動物中央研究所(実中研)と国立医薬品食品衛生研究所(国立衛研)の存在を挙げる。

国立衛研は東京都世田谷区から府中市への移転が決まっていたが、住民の反対運動が起き、暗礁に乗り上げていた。国は2011年12月に国際戦略総合特区の指定を受けた殿町3丁目地区に着目。都心や羽田空港に近く、特区のプロジェクトとして移転事業が展開できる。12年2月、同地区への移転が正式に決まった。

特区指定に先立って移転していた実中研究は新薬開発や人工多能性幹細胞(iPS細胞)を活用した再生医療など新たな医療技術の実用化に不可欠な機能を担う。国立衛研は医薬品の安全性・有効性の評価基準づくりを手掛ける医療分野の中核的存在。両研究所が備える人材と海外ネットワークも国際的な医療特区への求心力を高めた。

そして今。羽田国際化による同地区の立地優位性は医療以外の分野にも波及している。物流拠点を展開するヨドバシカメラはネット通販への対応を強化するため、鉄筋2階建ての既存施設の隣に5階建てを増設する。延べ床面積は約4万5千平方メートルから約28万5千平方メートルと6倍以上になる。

誘致した研究機関や企業は本年度以降、相次いで活動を開始する。まちづくりのノウハウを持つ大和ハウスは企業・研究機関を対象にした施設に加え、特区全体の利便性を向上させる都市機能の整備も進める計画だ。

◇先行成果を県全域に 浜銀総研八木理事に聞く

殿町3丁目地区で企業や研究機関の誘致が成功した背景や連絡道路の効果について、浜銀総合研究所の八木正幸理事に聞いた。

-特区指定から2年半でさまざまな研究機関、企業の集積に成功した要因をどうみるか。

「いわば、『天の時』『地の利』『人の和』の3点に恵まれたと言える。羽田連絡道路の膠着(こうちゃく)で神奈川口構想に足踏み感がうかがえた時に、同地区の先行整備を優先し、特区制度活用による最先端医療産業づくりの流れをうまくつくり出し、地域の将来性を示すことができた」

-川崎市やURは羽田空港への近さを全面に掲げた。

「羽田再拡張国際化はグローバル企業の誘致に大きな武器となった。内外研究者の足の便のほか、国際物流の面でも有利といえる。新幹線の速達性を生かせる品川駅への近さも企業にとって魅力のようだ」

-施設の誘致に伴い、多くの研究開発人材も集まってくる。

「川崎、横浜臨海部には、食品や素材などのバイオや医薬品分野に関連の深い企業が多く立地している。全国平均と比べ学術・開発研究機関に従事する就業者の割合が高く、大都市の中では川崎がトップ、2位が横浜。『接触による利益』というが、企業や研究者との交流などによるビジネスチャンスも企業の立地誘因となっている」

「ひとたびジョンソン・エンド・ジョンソンの東京サイエンスセンターなどの有力企業や国立医薬品食品衛生研究所などの研究機関の立地が決まれば、それが誘因となって関連事業の企業進出が続くことになる」

-国家戦略特区の成功は、東京圏として特に東京都心部と神奈川サイドの連携が鍵を握る。

「東京都大田区では内外企業の交流などを意識した産業交流施設の整備、MICE(国際会議、展示会)振興の構想があり、殿町3丁目地区でも商業・レクリエーション、文化などの関連施設整備が進むとみられる。大田区、川崎市それぞれが、地域の歴史や地元企業のブランド力を生かした取り組みを展開するなど、特徴を持ったまちづくりの取り組みに期待したい」

「国家戦略特区では神奈川県は全域が指定されたが、殿町などこれまでの総合特区制度における先行的な取り組みの成果を自治体間連携で広げていく工夫も大切だ。羽田連絡道路の整備は、空港を核にした一体的なまちづくりのために朗報。地域の一体感がおのずと強まる。同時に、大田区、川崎市が個性的なまちづくりに励む必要性も増したと思う」

【神奈川新聞】


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