健康を促進し、環境に優しく災害時にも強い。東日本大震災以降、再評価された自転車通勤だが、企業が制度化する例はまだ多くない。事故や駐輪場などの問題がハードルとなっているからだ。そんな中、グループ全体で約4500人が勤めるJFEエンジニアリング横浜本社(鶴見区)が、2013年2月から自転車通勤を正式に認めた。有識者も「この規模の企業が制度化したのは全国でも数例しかない」と語る。
午前8時すぎ。JFE正門近くの駐輪場に一人、また一人と社員がやってくる。鋼構造本部企画部長の橋本光行さんは昨春の転勤以降、週に2、3度は自転車で通う。横浜市中区の自宅から約1時間。「自転車用の服装で出社しても変な目で見られないのは快適です」と笑う。
そもそも同社で自転車通勤は黙認状態にあった。人事部統括スタッフの堂本明希さんは「会社周辺の違法駐輪にも悩まされていたので、誰が自転車通勤をするかを把握できた方が会社にも良いと思った。ただ他社に例が少なく、手探りの議論だった」と振り返る。
JFEでは、通勤時の事故は労働災害が適用されることを確認。事故の加害者になった場合は労災とはならないため、個人で自転車保険に入るよう促す。交通安全講習の開催、ヘルメット着用なども推奨。社員はこれらを了承した上で、誓約書と申請書を提出する。現時点で260人が申請しているという。
自転車ツーキニスト(通勤者)として多数の著書がある自転車活用推進研究会理事・疋田智さんは「日本企業は事なかれ主義で変化を好まず、『電車や車以外に自転車通勤を選ぶ理由が分からない』となってしまう。事故による労働災害が増えるという誤解も邪魔をしている」と指摘。「そんな中でのJFEの取り組みは、他社への波及効果も含めて意義深い」と評価する。
同社が制度化に踏み切ったのには、自社で手掛ける立体駐輪場「サイクルツリー」が、会社の目の前のJR弁天橋駅に整備されたことも大きい。事前に車両とカードを登録すれば、入り口の機械にセットするだけで自動で入出庫される。駐輪場内に人は入れないため盗難の心配がない。面積も小さくて済むため、ビル内でも設置可能だ。
自転車通勤をする社員はここを利用するのがルール。自社の駐輪場として活用するとともに、違法駐輪を減らす効果もあった。
社内では昨年10月から「サイクルツリー部」まで発足させ、普及に本腰を入れる。営業グループ課長の富山侍夢さんは「社内だけではなく、違法駐輪対策など、特に都市の自転車環境をより良いものにする手伝いをしていきたい」と話した。
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