
川崎発祥の「長十郎梨」ゆかりの新品種開発に挑戦している市民グループ「多摩川クラブ」(中本賢代表)が育てている梨の木に今夏、初めて果実が実った。味に課題があり、専門家からは新品種のお墨付きを得られなかったが、メンバーは「まだ苗木はたくさんある。引き続き挑戦していきたい」と話している。
梨は、長十郎と県産品種「菊水」を交配した。直径6~7センチに育ち、見た目はオレンジ色が濃く、明らかに長十郎と菊水とは異なる新しいものだった。21日に専門家に鑑定してもらったところ、実の収穫時期が遅かったこともあり、味がいまひとつで新品種とは認められなかった。
同クラブはこれまで、市南部の大師地区が発祥とされ、現在はほとんど市場に出回らない希少種、長十郎を地域活性化のシンボルにしようと、植樹や収穫体験イベントなどに取り組んできた。
同クラブの阿部英夫さん(58)は「梨畑が多い多摩区でも宅地化が進んでおり、50年、100年先に川崎が梨の産地だったことを市民が忘れてしまうかもしれない」と指摘。こうした危機感から新品種づくりに挑戦し、成功の暁には「かわさき」と名付けて「産地ということを伝えたい」(阿部さん)と思いを巡らす。
多摩区の生産農家「嘉乃園」の太田隆行さん(53)の協力で2015年春に交配。収穫した果実から種を採取し、苗木を育てた。このうち、同園と中原区の安藤直明さん(49)方の木が2メートルくらいに育ち、実がなった。
交配してできた梨で、実際に新種として登録されるような、味が優れたものができる可能性は何万分の1ともいわれる。それでも阿部さんは「今後も諦めずに新種づくりを続けていきたい」と前向きだ。