神奈川トヨタ自動車(横浜市神奈川区栄町)に寄贈された1955(昭和30)年製の初代クラウンが今月、公開された。「高級車の元祖」として名高く、1人の所有者が60年近くにわたり、大切に乗り続けてきた。同社は亡くなった所有者の遺志を継ぎ、大切に維持管理するとともに、要請があれば、国産自動車技術の素晴らしさを伝えるために貸し出すという。
車を所有していたのは、昨夏に85歳で逝去した岸敬二さん。保守合同で自民党が結党し、大卒初任給が1万円程度だった55年当時に約100万円で購入した。ドアは観音開きで、給油口はトランクの中、方向指示器は車体側面の外付け型…。購入資金は母親や兄と捻出したという。
それだけに岸さんの思い入れは深く、長男の泰之さんによると「子供のころ、父にエアコン付きの新車をせびったが、父は頑として首を縦に振らなかった。母らへの感謝があったのだろう」。壊れやすい部品をあらかじめ注文してストックしておくなど、ナンバー「5む0100」の愛車をいとおしんできた。
約40年前に、岸さんが都内から川崎市多摩区に引っ越した際、車検の相談に訪れたことから同社との付き合いが始まった。亡くなる直前の病床に同社の加藤久雄・渉外広報部担当室長を呼んで「転売しない」「多くの人に見てもらう」を条件に、寄贈を決めたという。
寄贈を受け同社のグループ会社が約4カ月かけて修復。ピカピカに磨き上げられた黒塗りの車体は、初代クラウンの登場から60年を記念して今夏開かれた、歴代のレストアクラウンが出走するイベントに参加。愛知県豊田市から東京・代官山までの約430キロを完走した。その際のドライバーも務めた加藤室長は「寄贈されたとき、岸さんがつぶやいた『あの車は幸せだ』との言葉が忘れられない。約束をしっかり守り、大切にしたい」と話した。