平塚市にある技術力が自慢の町工場でユニークな人材育成の取り組みが進められている。入社2年目の若手社員4人に会社から課せられた課題はおいしいピザが焼けるピザ窯を自分たちでゼロから造り、先輩や上司に振る舞うこと-。“エンジニアの卵”たちは試行錯誤を繰り返しながら、失敗から学ぶものづくりの神髄を体感した。
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独自の新人研修を行うのは工業用熱処理炉の設計・製造を手掛ける「関東冶金(やきん)工業」(平塚市四之宮)。従業員数約130人の中堅企業だが、車のコンデンサーやエアコンの熱交換器を作るのに必要なアルミろう付け用熱処理炉の製造では国内トップシェア。日本の製造業を陰から支えている。
2018年度に入社した新入社員が1年間続いた研修の総仕上げとしてピザ窯造りに着手したのは今年5月。大学院などで機械工学などを専攻した頭脳集団もピザの焼き方については全くの素人だ。まずは市内でおいしいと評判のピザ店を客として“内偵”するところから始まった。
ピザを焼くのに必要な温度は480度。「パーティー用に2枚同時に焼けるように炉を大きくすれば、それだけ放熱量も多くなる。れんがを二重構造にして熱が逃げないようにした」と設計に携わった小山亮さん(26)は解説する。
薪(まき)にもこだわり、香りの良い桜とリンゴの木を選んだ。7月30日に工場内で開いたパーティーでは、社内外の約50人にできたてのピザを振る舞って好評を得た。一方で課題も。熱膨張の影響で窯に亀裂が入り、ピザを焼く時も熱風が焚(た)き口から吹き出して、作業をしている社員の前髪が焦げてしまった。窯出しの作業をした林洸希さん(23)は「もう少し消費者目線で造らなきゃいけなかった」と反省した。
ピザ窯造りは高橋愼一社長のアイデアで昨年から始まった。これまでは職場の中で実務を通して学ぶ「OJT」を軸とした研修を座学重視に転換した。一人前のエンジニアに育つには10年ともいわれる。
「もはや昔のように先輩の背中を見て育つという時代でもない。今の学生はまじめで要領がいいのでしっかり教育すれば即戦力になる」と担当者。研修期間も半年から1年半に延ばした。
「大事なのは情熱。ものづくりの面白さを体感してほしい」と力説する高橋社長。小山さんは「常識にとらわれず、100回挑戦して99回失敗しても、一歩ずつ前に進めるエンジニアになりたい」と夢を語った。