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金融政策
ピークアウト経済【6】「官製景気」の限界か

経済 | 神奈川新聞 | 2019年6月29日(土) 10:58

実質消費支出指数の推移
実質消費支出指数の推移

「物価上昇の勢いが失われれば躊躇(ちゅうちょ)なく追加金融緩和を検討する」

 日銀の黒田東彦総裁は今月20日、金融政策決定会合後の記者会見で3度も「追加金融緩和を検討」と繰り返し強調した。

 「引き続き現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適当と考えています」

 強気の発言の背景には、世界経済失速の観測とそれに伴う欧米の動きがある。黒田総裁自らが指摘しているように世界経済が悪化するリスクは高まっている。

 米中貿易摩擦は展望が開けず、国際通貨基金(IMF)も米中が全面的に25%の関税を課すと世界経済に相当な影響が出ると試算しているという。

 こうした危機に備え、米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)は「金利の引き下げ」の可能性を示唆している。世界経済の減速に対応し、欧米が利下げに動いたときに日本だけが出遅れれば相対的に円高のリスクを背負うことになる。

 輸出系企業はこの為替差損を被り、円ベースの売り上げは目減り、利益は押し下げられ、結果的に生産や設備投資への意欲が減退する。日本が景気後退局面に突入する引き金の一つはここにある。

 黒田総裁の「追加緩和発言」は、そうしたシナリオにくぎを刺す意味を持つ。

 強気の発言はしかし日銀が実際に打てる追加緩和策が乏しいことの裏返しでもある。なぜか。

常態化

 2008年9月の「リーマンショック」直後から各国は、世界規模の金融危機を早期に収束させようと、大規模な金融緩和に打って出た。米国は15年末には緩和を終了、18年は4度の利上げを実施し金融政策の正常化に取り組んできた。欧州も18年には量的緩和を終えた。

 欧米が金融緩和をやめたのは、将来起きる可能性がある景気後退局面に備えるためだ。

 こうした中にあって日本は13年1月から異次元緩和を軸とする「アベノミクス」をスタートさせた。当初目標の「物価の年率2%上昇」を掲げ、6年半たった今も実現できていない。

 緩和は常態化しそして冒頭の黒田総裁の発言だ。

 この間に日銀は一体何をしてきたのか。

 国債発行残高は18年12月末時点で1111兆円にまで膨張。この国債を金融機関などから日銀が新たに円を発行し購入する。日銀が供給する「円」の総量を意味するマネタリーベースは19年5月末時点で、511兆8200億円にまで拡大した。アベノミクスが始まる前の12年12月時点で131兆9837億円だった水準からすると4倍超。まさに「異次元」といえる。

 そうして銀行などの金融機関から大量に買い集め続けた結果、日銀の国債保有残高は18年12月末時点で478兆円にまで増加。実に国債残高の43%を保有する最大保有主となったのだ。

 日銀が円を発行して国債を購入することで円の量が増え、市中に金が行き渡り、金利は下がり続けた。

 設備投資や生産活動への意欲が高まり、賃金が上がり、消費が拡大、物価が上昇し、さらに消費が刺激され、景気が回復していく-。それがアベノミクスが描いた回復のシナリオであった。

 だがそうした机上のストーリーは内実を伴わず、いまや「異次元」から正常化への軌道さえ暗中にある。

 黒田総裁は20日の記者会見でこう言った。

 「当然(物価上昇率)2%の物価安定目標が達成されるという状況になったときに、全体として出口の議論が行われるということになると思いますが、今の時点でこれをどうするかは、全く考えていません」

 
 

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