景気の動向を直接的に表す分かりやすい二つの指標がある。「企業倒産件数」と「完全失業率」だ。
いずれもおよそ10年連続で減少が続き、2018年度の企業倒産件数は28年ぶり、完全失業率は26年ぶりの低水準となっている。有効求人倍率も約45年ぶりの高水準で、数字上は「倒産しない」「人手が足りない」という絶好調の活況にあるかのようだ。
実情はしかし「楽観できない」というのが企業倒産に詳しい信用調査会社の見立てだ。
■息の根
帝国データバンク横浜支店情報部の内藤修部長はこの6月、衝撃的な倒産案件に出くわした。
「従業員数人の県内の建設会社だった。返済が1度遅れたとたん翌月に突然、何の連絡もなく口座を凍結された。軒並み支払いができなくなり、その会社はいきなり倒産に追い込まれた」
返済猶予(リスケ)を繰り返してきた企業ならさておき、たった1度の返済遅延で息の根を止められるという事態に内藤部長は「ここ何年も聞いたことがないことが起きた。金融機関側に落ち度があるわけではない。ただ、この数年、金融機関はほぼ100%リスケを受け入れ、多くの企業が倒産せずに済んだ。今回も同じようなケースだったはずだ」と話す。
景気動向の雲行きが危うさを増す中、「金融機関が融資姿勢を一気に硬直化させている可能性がある」と指摘する。
全国の企業倒産件数が低水準で推移しているのは、2009年12月に施行された「中小企業金融円滑化法」の効果が大きい。
中小企業や住宅ローンについて債務者が希望すれば一定期間猶予すること(リスケ)を規定したこの臨時措置法は13年3月末に期限を迎え終了したが、金融庁はその後も全国の金融機関に再三、「中小企業・小規模事業者の資金繰りに万全を期す必要がある」と要請を繰り返してきた。