神奈川労働局が30日発表した県内の4月の有効求人倍率(季節調整値)は前月から0・03ポイント上昇した1・11倍で、バブル崩壊直後の1992年1月以来、25年3カ月ぶりの高さとなった。上昇は3カ月連続。同労働局は、県内景況の緩やかな回復の動きが進んだとして、雇用情勢判断を「改善している」と上方修正した。
雇用情勢判断を引き上げたのは、有効求人倍率が1倍台に達した2015年12月以来、16カ月ぶり。有効求人数(同)は前月比0・8%増加したが、有効求職者数(同)が1・7%減少し、有効求人倍率が押し上げられた。正社員の有効求人倍率(原数値)は0・68倍だった。
実際の勤務地を基準とする就業地別有効求人倍率は1・34倍で、04年2月に統計を取り始めて以来最高に。
県内では東京五輪や交通網整備による旺盛な建設需要を背景に、建設や運輸業界で働き手が求められているほか、物流や福祉業界でも人手不足感が強まっている。新規求職者数(季節調整値)は前月比0・4%減少した。新規求人倍率(同)は前月比0・01ポイント低下し1・63倍と2カ月連続で減少したが、高水準を維持していることなどから、同労働局は「こうした状況は今後もしばらく続く」とした。
主要産業別の新規求人数では、増加したのは卸売業・小売業(前年同月比2・4%増)、サービス業(1・3%増)など。減少したのは専門・技術サービス業(24・0%減)、製造業(12・8%減)、運輸業・郵便業(7・7%減)など。全産業では3・6%減少した。
強まる人手不足感
打開の特効薬を
待遇底上げ必要
企業の人手不足感が県内でも強まっている。4月の有効求人倍率はバブル崩壊直後以来の高水準で、神奈川労働局は雇用情勢判断を引き上げるに至った。企業は人材難を乗り越えるため、模索を続けている。
東京五輪に向けた工事需要のピークを来年以降に控える建設業界。「働き手の奪い合いは異業種を交え、広がっている」と、横浜市内の老舗建設会社の担当者は指摘する。協力会社の技能工も不足し、仕事があっても全ては取れない。生産性向上は一朝一夕で実現はせず、コストもかかる。「人手不足打開の“特効薬”があれば教えて」
保育現場での人手不足は、とりわけ首都圏で深刻だ。県内でも保育所を展開するJPホールディングス(名古屋市)では、潜在保育士の活用や、地方からの人材呼び込みに注力する。
5月からは東京都や横浜、川崎市内で運営する保育園で、夜間保育の時間帯に特化したアルバイト保育士の採用を始めた。「短時間で効率的に働きたい潜在保育士のニーズにマッチし、帰宅時間の遅い保護者のニーズにも応えられる」と担当者。上京した保育士が安価で暮らせる寮も整備済みだ。
人口の多い団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」を控え、需要拡大が確実な介護業界でも働き手の確保は喫緊の課題だ。介護大手ツクイ(横浜市港南区)は訪問介護サービスや有料老人ホームなどで人材確保が慢性的に厳しく、一部施設では看護師を派遣で補う。
人材の確保や定着には「地道だが、業界の魅力や仕事のやりがいを発信し続けることが求められる」と担当者。「給与面に頼らず、(非正規から正規雇用への転換を含む)人事・キャリアパス制度や福利厚生面の充実など、待遇の全体的な底上げが必要」
中小・小規模の製造業では、人材が集まらないことや、定着しないことへの悩みが深い。
金型や産業機械の部品加工を手掛ける関東精密(同市都筑区)では近年、求人募集を公共職業安定所(ハローワーク)から有料の求人広告サイトに切り替えた。掲載料は2週間で十数万円かかるが、杉田勇社長は「業務内容などが的確に伝わり、長く働いてもらえそうな人に出会えた」とメリットを語る。
「表面的な感触の良さだけでなく、企業風土を含めて理解してくれる人を採用したい」と話すのはプレス金型製作などを手掛けるニットー(同市金沢区)の藤澤秀行社長。離職者の欠員補充や将来的な業容拡張に備えようと、来週にも新たな求人を出す予定だ。ミスマッチを防ぐため、応募者が少なくても採用基準を下げず、限られた面接回数の中で、企業側と応募者側が互いに納得し合う大切さを挙げた。