川崎市と慶応大学など4大学による新産業を創出する共同研究拠点の整備が、民主党政権誕生によって揺れている。2009年度の第1次補正予算に事業費が計上されながら、「ハコモノには執行しない」という同党の見直し方針によって、事業費の9割が執行停止となる見通しとなったためだ。思わぬ形で政権交代の余波を受けた市は「激しい国際競争の中ではスピードが大事。重要な国家的プロジェクトであることを理解してほしい」と、事業継続を模索している。
事業名は「地域産学官共同研究整備事業」。独立行政法人・科学技術振興機構(JST)が事業主体となり、土地は自治体が提供し、施設はJSTが整備・所有、運営は地元が行う枠組み。緊急経済対策の一環で各都道府県に1カ所ずつ拠点を整備する予定で、総事業費として計695億円を計上している。
しかし、政権交代後、民主党は補正予算の見直しに着手。10月16日の閣議決定で、同事業について施設整備費など432億円分を「執行停止・返納見込み」に分類。事実上、この事業では拠点整備を進められない状態に陥っている。
川崎市では慶大、東大、東工大、早大の4大学コンソーシアム(共同事業体)がことし1月、「拡張ナノ空間」と呼ばれる未開拓領域の理工学研究を推進するため、同市幸区の「新川崎・創造のもり地区」に最先端の研究・技術開発拠点を立地させ、市がサポートすることで基本合意。同事業を活用し、約1ヘクタールの敷地に、4階建て総床面積約9400平方メートルの施設を整備する予定で、建設費約27億円を含む約30億円かかると試算していた。
スケジュール上は、9月末に選定され、同月から基本計画の策定、09年度中に基本設計、10年度に実施設計・工事に着手、11年度に供用開始の予定だった。
ナノテクノロジーは、医療や環境、エネルギーなどで期待されている分野。市は、臨海部の「神奈川口」(川崎区)に環境やライフサイエンス(生命科学)、新川崎地区ではナノテクの研究・開発拠点整備を進め、有機的に結び付けていく方針を掲げている。
市総合企画局は「川崎での研究は、国内の経済をけん引し、世界に貢献できる分野」と強調し、新たな枠組みによる拠点整備を模索している。
【】