中小企業にとって、事業承継は避けては通れない道だ。手塩にかけて育てた会社を手放す経営者、その意志を引き継ぐ後継者、仲介役の第三者。それぞれの視点から課題に迫る。

文字でびっしりのA4用紙が5枚ほど、食堂の白板に張られていた。顧客との接点が多い店頭のスタッフが、日々の「気付き」を記録しているのだという。
「実直な人材がそろっているなあ」
モロゾフ(神戸市)の東京支店長だった野村謙(56)は2019年末、鎌倉ニュージャーマン(鎌倉市)の大船工房を見学し、そんな印象を抱いた。
野村は同行した幹部と共に、ニュージャーマンの経営を担う関夫妻と初めて面会。創業者の長女で、顧客満足度の向上を目指す関千佳子(53)と、製造現場に精通する健一郎(42)の思いに耳を傾けた。
「『売る』と『作る』のプロが中枢にいるのは強みだ」
野村はそう感じた。しかしその半面で、ある弱点が浮かび上がる。