
首都圏の新築マンションの平均発売価格はバブル景気とともにピークを迎え、一時6千万円を突破した。その後は急落して4千万円台で推移し、リーマン・ショックによる一時的な下落を経て再び上昇局面に突入。昨年は5980万円と過去最高額に迫った。
そしていま、新型コロナウイルスにより世界経済が大きな打撃を受けている。この不況は、マンションの販売価格にどう影響するのか。
「仮に値下がりしても限定的だろう」
東京カンテイ(東京都)の井出武上席主任研究員はそう話す。最大の理由は、値下げをいとわないデベロッパーの「不在」にあるという。
バブルが崩壊した1993年以降、世界金融危機が起こる前年まで発売価格は4千万円台前半を行き来する。その当時、雨後の竹の子のように乱立した新興デベロッパーは、マンションの建設と販売を短いサイクルで繰り返して売り上げを急拡大させていった。
各社は資金回収を最優先するため、いわゆる「投げ売り」を辞さなかった。周辺相場を突き崩す安値のマンションが登場する度、競合する大手デベロッパーも追従を余儀なくされ、価格帯が抑制される状況が生まれたのだ。
ところが、リーマン・ショック前後の外資系ファンドや金融機関の引き締めにより、新興各社は一気に資金繰りが悪化して次々と倒産に追い込まれた。こうしてデベロッパーの淘汰(とうた)が進み、大手が強い影響力を持つ現在の市場構造が出来上がった。
昨年の発売戸数は27年ぶりの低水準となる3万戸余りまで減った一方、価格は6千万円の大台が近づく。
「競合相手が少なくなった現状で、大手各社が値下げに踏み切る理由は見当たらない。バブル期やリーマン・ショック前後とはデベロッパー側の事情が異なる」と井出氏は言う。