1. ホーム
  2. ニュース
  3. カルチャー
  4. 幸福感に満ちた執筆時間 平野啓一郎「マチネの終わりに」 

幸福感に満ちた執筆時間 平野啓一郎「マチネの終わりに」 

カルチャー | 神奈川新聞 | 2016年5月9日(月) 02:00

芥川賞作家の平野啓一郎さん
芥川賞作家の平野啓一郎さん

 〈「理解された喜び」がふたりの心を結んだ/初めて言葉を交わした夜から約5年半/たった3度しか会ったことがないけれど、人生で最も深く愛した人〉

 芥川賞作家の平野啓一郎(40)が新刊「マチネの終わりに」(毎日新聞出版、1836円)でつづった天才クラシックギタリスト、蒔野聡史(38)と、フランスの通信社に勤める記者、小峰洋子(40)のラブストーリー。「殺伐とした世の中、小説を読んでいるときくらいは、現実から離れてうっとりした時間を過ごしてほしい」と願い、毎日新聞朝刊で昨年3月1日から、今年1月16日まで連載した。

 同時期にウェブサイト「note」でも全文を公開。多方向に発信した作品は、10~90代と幅広い読者を獲得した。307回にわたった連載終了後には、“マチネロス”になったという手紙も届いた。

 京都大学在学中に執筆した「日蝕」で1999年に芥川賞を受賞し、23歳で文壇デビュー。初期創作では作家として「やりたいこと」を、次に「できること」を考えた。そして、今の時代を生きる作家として「すべきこと」を追求。それぞれの思いは作品に落とし込んできた。

 新作で描きたかったテーマの一つは、「人間の自由意思と運命について」。テクノロジーが進歩していくと、人間が考え、行動することはリスクとされる。また、インターネットで買い物をする際、お薦めの広告を見て商品を購入するがこれは本当に自由意思だろうか。

 作品の中心に「愛」を据えたのは、人間にとって愛こそ最も自由なものであってほしいと思ったからだ。


 「人間の恐ろしさ、滑稽さ、美しさがにじみ出るのが恋愛。(メールやSNSなど)通信手段が発達したことによって、逆に僕たちの生活が混乱している部分があると思います。心が言葉に追いつかず、こぼれ落ちてしまう感情もあるから」

 蒔野と洋子。互いを大きな存在にした要因は、「話していて楽しい」という事実。会話を重ねることで、音符が跳ねるように、心が弾んだ。単純な始まりだが、それは初めて知る自分の姿だった。

 孤高のギタリストと紛争下のイラクを駆けるジャーナリスト。身近な職業や存在ではないが、連載中、作品世界に流れていた穏やかな音色が乱れ、無になり、空虚が広がると、2人の愛の行方に自らの人生を重ねた読者から「結ばれてほしい」という声が多く上がった。

 「共感」。それは平野が過去に手がけ、今なお支持される長編「葬送」にも寄せられた。

 ショパンとドラクロワ、2人の天才を描いた「葬送」を執筆するためドラクロワの日記に目を通した。「『アトリエに行けば、仕事をすることができると分かっているのに、ぐずぐずして今日も行くことができなかった。自分は怠け者だ』と後悔する姿に、共感しました。憧れと思っていた存在の人も完璧ではなく、自分と同じようなことで悩んだりするのだと気がついて。トーマス・マンの作品を手にした学生時代もそう。あ、自分のことが描いてある。どうして気持ちが分かるのだろうと」。物語と向き合う中で、孤独が癒やされた。

 「マチネ-」では、〈未来は常に過去を変えている〉という蒔野のひと言が洋子と読者を揺さぶった。「自らが読みたい」と思い、筆を進めた。没頭している最中は「『葬送』に取り組んでいたときと同じような幸福感に満ちていた」と振り返った。

ひらの・けいいちろう 1975年愛知県蒲郡市生まれ、北九州市出身。新刊PRのため全国の書店を巡る中、横浜、川崎の書店も訪問。「史上最年少の28歳で三冠王に輝いた落合博満選手が好きで、小学生のときは、ロッテオリオンズの帽子をかぶっていました。川崎に到着したとき、『あの、川崎球場がある場所か!』とこみ上げました」


芥川賞作家の平野啓一郎さん
芥川賞作家の平野啓一郎さん

平野啓一郎 新刊「マチネの終わりに」(毎日新聞出版、1836円)
平野啓一郎 新刊「マチネの終わりに」(毎日新聞出版、1836円)

平野啓一郎に関するその他のニュース

カルチャーに関するその他のニュース

PR
PR
PR

[[ item.field_textarea_subtitle ]][[item.title]]

アクセスランキング