「初めて演劇を見たときの衝撃。それまで感じたことがない“生”がそこにありました」
KAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)の芸術監督を務める白井晃(58)は、少し恥ずかしそうに、だがうれしそうに続けた。「いま、自分は生きているのだと実感できたんです。自分がここにいるのだということを強く感じたのはこの時が初めて。いまも心を大きく揺さぶられた10代の僕がすぐそばにいます。創る舞台で観客を揺らすんだ。その思いがいまも僕を動かしています」
熱の渦。それは、京都大学内にある西部講堂で見た「お手をどうぞ」(ウィリアム・シェークスピア原作の構成劇)で生まれた。早稲田大学の演劇研究会がつくり出した虚構空間が、客席を巻き込んだ。感じた熱の理由を解き明かそうと、千秋楽まで通い詰めた。「この人たちと演劇がしたい」。心にともった火が燃えさかった。通っていた立命館大学をやめ、翌春、早大の門をくぐった。