フランス人歌手のクレモンティーヌが、9曲入りのアルバム「JAPON」を発売した。新盤では和楽器のみで構成する日本人男女8人組「AUN J(アウン・ジェイ)クラシック・オーケストラ」と初共演。「桃太郎」「ドンパン節」など日本の童謡や民謡が並ぶが、日仏語でささやくように歌う独自の声は、耳なじみがある楽曲を新しい色に染めている。
日仏を往復し今年で25年になる。日本ではクロード・ルルーシュが、カンヌ国際映画祭でグランプリなどを獲得した「男と女」(1966年)の同名主題歌のカバーで知名度が一気に上昇。アニメ「天才バカボン」のテーマ曲をシャンソンにした作品は、ノンアルコールビールのCM曲に起用され、人気が再燃した。
3年前、自身のライブに「AUN Jクラシック・オーケストラ」のメンバーが訪問したことが始まりで、縁が生まれた。クレモンティーヌにとって和楽器は「厳かなもの」という印象だったが、激しい演奏は米国のヘヴィメタルバンドのメタリカを思わせ、またバトルのような三味線の音は、ジャズミュージシャンのジャンゴ・ラインハルトの表現に重なった。
津軽三味線が独自の奏法を切り開いたのは、盲目の旅芸人がより大きな音・派手な技を追求していったのが始まりだ。一方、西洋では一所にとどまらずジプシー音楽を演奏しながら各地をめぐった芸人たちも他者から頭一つ抜け出そうと、独特のスタイルを生み出していった。時代や生まれ育った環境は違っても芸人たちの不思議な類似性にも強くひかれた。
「しの笛の音を耳にしたとき、幼いころ住んでいたメキシコやアメリカの荒野を思い出したんです。ノスタルジーな気持ちになるデリケートさは、私の声と合うはずと直感しました。尺八と鈴などの鳴り物で、親の教えの尊さを歌う「てぃんさぐぬ花」は全編フランス語で。こんこんとわき出る水のような澄んだ音が心地良い。「五木の子守唄」は波紋のように広がる琴の調べに合わせ、日本語とフランス語で歌う。知っているのに、初めて聴く曲に変わる。「私が歌うことで、日本の人には先人たちが築いてきた文化を再認してもらえたらうれしい」と思いを込める。
12日には鎌倉宮(大塔宮)の薪能特設ステージで「AUN Jクラシック・オーケストラ」とライブでの初共演を果たし、和楽器が持つ音の荘厳さに改めて驚いた。11月1日の滋賀・彦根城内玄宮園特設ステージを皮切りに、「桃太郎」が生まれた岡山、「ドンパン節」のふるさと、秋田など緑に囲まれた5カ所でライブを行う。「神聖な場所で行うコンサート、ぜひ多くの人に足を運んで欲しいです」
◆クレモンティーヌ。仏パリ生まれ。レコードコレクターの父親の影響でジャズに囲まれて育つ。1988年に歌手デビュー、日本では92年から活動をスタートした。