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トホホ釣り日誌【3】横浜竿 竿師・汐よしさんを訪ねる

カルチャー | 神奈川新聞 | 2015年7月31日(金) 11:00

竹が並ぶ工房兼店舗で竿の曲がりを直す汐よしさん。横浜竿作り45年のベテラン竿師だ
竹が並ぶ工房兼店舗で竿の曲がりを直す汐よしさん。横浜竿作り45年のベテラン竿師だ

 釣り人なら一度は手にしたい逸品道具といえば、竿師(さおし、職人のこと)が竹を丹精込めて細工して工芸品に仕上げた「和竿(わざお)」だ。江戸時代、関東に生まれた釣り文化の華で、繊細な江戸和竿と実戦的な横浜竿が代表格。横浜竿一筋45年、竿師の汐よし(本名・早坂良行、64歳)さんの工房兼店舗(横浜市南区六ツ川)を訪ねた。

コンロであぶる

 材料の竹と和竿がならぶ店内。20年前に購入したシロギス竿を持参した釣り人が来店。「握り近くが微妙に曲がってしまった。修理をお願いします」と汐よしさんに竿の状態を説明する。

 柔和な表情で記者の取材に応じていた汐よしさん。竿を受け取ると、サッと表情一変、竿師の姿に。火入れコンロの前にどっかと座ると、鋭い眼光で竿の曲がりを目測。おもむろに竿をコンロにかけて左手で回しながら、前後に動かしてあぶりだした。



 あぶりながら硬く乾いていた竿が曲げられる柔らかさになる瞬間をとらえ、手作りの矯(た)め木という道具で曲がっているところを「ギュッ。ギュッ」とあちこち直していく。少しずつ補正され、約10分。20年前の真っ直ぐな竿に生まれ変わった。

 「和竿作りには、竹の曲がりを直す矯めと強度を増す火入れが大事な作業で、弓矢の矢柄を作る技法が基本になっています。身につけるには10年はかかりますね」

 自身は20歳のとき、竿師の汐さわ(本名。塩沢隆市)さんに弟子入り、26歳で独立。「汐」の一字をもらい、初代汐よしを名乗ることになった。「焼き判」という家紋のようなものを師匠からもらったとき、「まだ駆け出しですが、とてもうれしかったですね」と振り返る。


汐よしさんの「焼き判」。竿師の技量と心意気が込められているトレードマークだ
汐よしさんの「焼き判」。竿師の技量と心意気が込められているトレードマークだ

江戸後期に誕生


 江戸和竿は天明年間(1781~1788)ごろ、泰地屋東作(たいちや・とうさく)が、和竿を作り、東京・下谷の釣具店で販売したことにさかのぼる。

 江戸時代は太平の世の中が続き、富裕な町民や武士の間で、品川沖の浅場で小物のハゼやキス、川での小ブナ、タナゴを狙う「釣り」が遊びとして広まりつつあった。武具が必要なくなった時代背景から、弓矢師らが「竿」の注文を受けたのが「和竿誕生」につながった。

 横浜竿はその後、旦那衆が乗った釣り船を操っていた横浜の漁師が、見よう見まねで作ったもの。違いは江戸和竿が「遊び」なら、横浜竿は「生活」のため。漁師が大物のスズキやマダイを釣る目的で考案した、いわば「プロ」仕様の実戦的な竿だ。

使う竹が違う

 江戸和竿の材料は、「矢竹(やたけ)」「布袋(ほてい)竹」「真竹(またけ)」「淡竹(はちく)」が使われている。ハゼの中通し竿では、小さなあたりを拾うため、しなやかに曲がる細身の「布袋竹」が用いられた。


竿をつなぐ「接ぎ」の部分を小刀で削る。どのくらい削るかは修業で培った勘が勝負
竿をつなぐ「接ぎ」の部分を小刀で削る。どのくらい削るかは修業で培った勘が勝負

 一方、横浜竿は海釣り専用の竿。竹といってもササの仲間で、地元で手に入れやすかった「丸節(まるぶし)」が主に使われてきた。

 汐よしさんの作る横浜竿は大物から小物まで、「今の釣りに対応し、進化する竿」。例えば、ひとつテンヤのマダイ釣りが注目されると、ベテラン釣り師でもある汐よしさんは、自分が作った竿を持って釣り船に乗船。穂先の感度、胴のしなりや粘り、バランスなど新しい釣りに対応できるかテストして、よりよい竿作りを心がけている。

横浜マイスター

 東京オリンピックが開催された半世紀前、グラスロッドが登場。和竿は押され出し、多くの竿師が廃業した。材料一つとっても、昔は地元の山野で竹が調達できたが、都市化の波で環境が激変。九州から入ってきていた材料も数が少なくなるなど、竿師を取り巻く環境は厳しくなる一方だ。「竹を450本仕入れても良い竿にできるのは20~30本ぐらい。竿をたくさん作れないので、生活するのは大変」と語る。

 半ば伝統が途絶えることを覚悟した矢先、汐よしさんの竿に魅了された金子達也さん(34)が弟子入り。すでに経済産業省指定伝統的工芸品、東京都知事指定伝統工芸品の指定を受けているが、弟子ができたことで、技の継承が前提になる「横浜マイスター(横浜市主催)」の審査を受けた。8月17日、市から選定通知があり、27日には市役所で表彰された。汐よしさんは「横浜竿の伝統を弟子に伝え、より一層精進し、釣り人に喜ばれる良い竿を作っていきたい」と抱負を語った。

 帰社前、最高級品の竿を手渡してくれた。ワシントン条約締結前に仕入れたセミ鯨のひげを細長く削りだし、穂先にした自慢のカワハギ竿だった。

 「天井に穂先を当ててごらん」というので、コツンと軽く当ててみたところ、なんとしなやかに曲がることか。こんな手応えの竿は手にしたことがなく、いっぺんに虜になった。

 腕の悪さも顧みず、「こんな竿ならトホホも返上できるかも」と値段を聞いたら、25万円以上とのこと。「トホホ」とため息ついて、工房を後にした。


汐よしさんの一言
汐よしさんの一言


 良い和竿は丈夫で、大物を釣って曲がってしまっても、数日したら元に戻るということも多いものです。また、穂先が折れた竿も修理できますので、使い方一つで20年以上も使えるなど、長持ちしますよ。

 管理の仕方ですが、釣りで使ったら、穴が開いたつなぎの部分に水が入らなければ、シャワーで洗っても大丈夫です。

 洗い終わったらしっかり水分を拭き取り、直射日光があたらず、湿気の少ない場所で真っ直ぐ立てかけておくか、横にかけて保管してください。

 入門用は5~6万円から購入できます。問い合わせは電話045(715)1291。

▼ウェブサイト
進化する実戦竿 横浜竿の汐よし

 
 

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