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旬漢〈3〉
スキマスイッチ「伝わる波動」

カルチャー | 神奈川新聞 | 2015年4月21日(火) 03:00

スキマスイッチ(左から)鍵盤の常田真太郎と、ボーカル・ギターの大橋卓弥
スキマスイッチ(左から)鍵盤の常田真太郎と、ボーカル・ギターの大橋卓弥

 ボーカル・ギターの大橋卓弥(36)と鍵盤の常田真太郎(37)なるデュオ「スキマスイッチ」。ふたりの作品に触れると、音は振動、それを伝える力は波動だと感じる。ふたりが紡ぐ音、言葉は巧みで、それは聴き手によって色を変える。ふたりは「それでいい」のだと言う。だからこそ音に乗せる言葉には深いこだわりがある。【西村綾乃】

 2013年7月にデビュー10年を迎えた。「曲は聴き手の中で成長し続ける」。観客の反応をライブで感じたとき、手紙など寄せられた言葉で、それをかみしめている。代表曲「奏(かなで)」は遠距離恋愛をテーマにしたが、娘の結婚式で父親が門出の曲として歌うと知らされ、「曲や歌詞の受け止め方はそれぞれのもので、僕らが思ってもいなかった形になって戻ってくることもあるのだ」と実感した。

 同じレーベルの大先輩である小田和正に「作詞作曲には、君が生きた24時間を入れなさい」と助言されたことがある。「映画を観て、ご飯を食べて、電車に乗って、旅行に行って…。聴き手と変わらない日常が僕にもある。特別じゃない、日々の暮らしの中にある輝き。僕の言葉はどこにあるのか。いまもふと筆が止まる」。大橋がつぶやいた。

 シングル「ボクノート」(2006年)では、「考えて書いてつまずいて消したら元通り 12時間経って並べたもんは紙クズだった」と制作の苦悩を記した。でも「迷い立ち止まった自分自身も信じていたい」「もがいている自分も全部僕」だとし、最後に、「耳を澄ますと確かに聞こえる“僕の音”」と闇に差し込んだ光をしっかりと含めた。韻を踏む。言葉のマジックは、行間にも込める。大橋が喉を震わせ歌う言葉は脳に、心に。広がる波紋は聴き手が身体全部で受け止める。そのとき体内で何かが起こる。刻まれた声、思い。それによってわき出てくる聴き手の記憶。だからこそ。大切なことは「曲の人格を届けること」と力を込める。


 結成から数えると16年をともにしてきた。「得た経験値はどんなときも勝負できる自信になり、引き替えに老いを渡された」「みんな死に向かっている。今日の自分たちしか書けない曲、言葉があるんじゃないか」。いつもその思いと戦っている。「生きるっていうこと それはきっと 少しずつ 手放していくこと」と最新アルバム「スキマスイッチ」に収録した「星のうつわ」でつづった。そう、生には限りがある。大事だと感じられるものはわずかで、こぼさぬよう最期のときまで大切に守りたい。

 常田は17年前に母を亡くした。カメラマンをしている父とは感情表現が苦手な同士、ぶつかることも多かった。ピアノと出合い見つけた自分の世界。音楽の成績が2だったこともあるが、見よう見まねで音楽を追究していった。引きこもった時期もあった常田にとって音楽はかけがえないもの。だが、母と重ねることができなかった時を思うと、「いない方には聞きたいことがたくさんあるんです。あの唐揚げはどうやって作ったの。おみそ汁のだしはどんな風にとっていたのとかね」

 愛知県にある実家から専門学校進学のため上京した大橋は、2週間で学校を辞めてしまい親に打ち明けられなかったことを振り返った。「2年間分の学費は払ってくれていて、おふくろは退学したことを知っていたけど、親父に黙っていてくれたんです。言えば『すぐに帰ってこい』と言われるから。僕が、学校に行っているふりを親父にしてくれていて、つらい思いをさせたから、僕が音楽をしていることを心の底ではよく思っていないんじゃないかなぁと思うときがあります。僕の夢はかなったけれど、どうしたら恩返しができるのかな。十分だよといつも言ってくれるけど、それが子どもへの親の気持ちなのかもしれないけど、どうしたらあなたたちが望むような僕になることができますか、と迷惑をかけてきた分だけ思います」。

 ふたりが大事にしているのは「等身大」であること。聴き手と同じような悩みを抱え、男として、夫として、親として、人間として日々もがいている。苦悩の中で見つけたリアルな思いだから、聴き手が心の中にしまっておきたい大事な言葉になるのだ。

 思いを伝えるため-。21日に「神奈川県民ホール」の舞台に立つ。

◇すきますいっち。ボーカル、ギターの大橋卓弥(おおはし・たくや)1978年5月9日、愛知県東海市生まれと、鍵盤の常田真太郎(ときた・しんたろう)1978年2月25日、愛知県名古屋市生まれの2人組。1999年に結成し、2003年7月にシングル「view」でデビュー。2005年に発売した5枚目のシングル「全力少年」が大ヒットし、同年のNHK紅白歌合戦に初出場。一躍全国区に。デビュー10周年を迎えた2013年にはフルオーケストラと競演するなど、表現の幅を広げている。展開中の全国ツアーは7月6日の大阪城ホールが最後。東京では6月30日、7月1日に日本武道館で公演を行う。









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