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おさらい 県立図書館再編

カルチャー | 神奈川新聞 | 2015年4月14日(火) 13:48

おさらい 県立図書館再編(上) 
何するところ? 「違い」のPR不足


館。壁面のブロックから明かりが漏れる。右は同時開館の県立音楽堂 =横浜市西区
館。壁面のブロックから明かりが漏れる。右は同時開館の県立音楽堂 =横浜市西区


 「バーのようなカウンターで歴史や文化に詳しい専門家と語らえる。ちょっとお酒も飲めて…」「いざというとき必要な資料があり、専門的なアドバイスをもらえる」「地元が好きになるような地域資料が充実している」…。

 テーマは「私が行きたい図書館」。県教育委員会が再編を検討している横浜市西区の県立図書館、川崎市川崎区の県立川崎図書館の2館をめぐって、1月上旬に開かれたワークショップ(WS)の一幕だ。参加者は時にイラストも交え、それぞれの理想を語った。

 WSを主催したのは、利用者らで構成する「神奈川の県立図書館を考える会」。再編への期待とともに、焦りもあった。2館の再編方針が決まったとはいえ、具体像が示されないまま1年以上が経過。WSの冒頭、同会を主宰する岡本真は「県を信頼しているが、首をかしげるような整備案が決定事項として出されては困る」と率直に語った。

「二重」で廃止論

 県立図書館が、一時はなくなりかけた。県教委は2012年11月、緊急財政対策の一環で県立図書館の閲覧・貸し出しサービス廃止と、川崎館の廃館を提案。約8億円の節減を見込んだ。既存の検索システムを使い、2館の蔵書を必要に応じて各地の図書館に配送すればいい-。「その方が利便性が高まる」と、黒岩祐治知事も強調した。

 背景には、図書館が県にも市町村にもある「二重行政」への批判があった。とりわけ、県立図書館の近くには、国内最大規模の横浜市立中央図書館がそびえる。12年当時の蔵書冊数は県立の80万に対し市立中央は164万と倍以上。

 県教委はこうした数値を挙げ「県立2館の貸出冊数は県内の全公共図書館の1%にも満たない」と、「廃止」の合理性を説いた。閲覧の自由を定めた図書館法などに違反するとの指摘も「法の適用除外にすればいい」とかわそうとした。

見えない「役割」

 翌13年2月、県教委は一転して「廃止」方針を撤回した。県民の反対があまりに多かったのだ。いくら検索システムがあっても、実際に本棚の本を手に取れないならば図書館とはいえない、という「当たり前の感覚」が決め手になった。

 とはいえ、県教委の過激な提案は、素朴な、それでいて簡単に解けない難問を残した。「県立図書館は何をするところ?」と。

 実は同じ図書館を名乗っていても、県立と市町村立とでは役割が異なる。

 例えば利用者側からみたとき、市町村立が身近に読書に親しむ場であるのに対し、県立はより専門的な今昔の本を多くそろえ、調査研究にも堪えうる場。入館の際に手荷物をコインロッカーに預けるのも、貴重な蔵書の紛失を防ぐためだ。

 他方、図書館の内部からみても、県立は市町村立の図書館員を養成したり、希少な本を市町村に提供したり、という「核」の役割を担う。例えば平塚の本を鎌倉に、小田原の本を大磯に…と本を融通し合う「協力貸し出し」も、実は県立が定期運行する巡回車によって流通されている。

 ただ、こういう「独自の役割」は外から見えない。気軽に読書しようと県立にやって来た人が「なぜロッカーに預けるの?」と不満を口にする場面もしばしばある。「違い」のPR不足の表れだ。その象徴が12年秋の「市町村立で見られるようにすれば…」との黒岩知事発言だった。もともとやっていたのに…。

 県教委は15年度の当初予算に再整備の予備調査費568万円を計上した。1954年11月に県立図書館が誕生してから60年余り。その蓄積をどう生かすのか。2年半に及ぶ再編問題を振り返り理想像を検討する。


県教委は新年度予算の調査を通じて「新棟の整備」の可否を判断する。黒岩知事が2013年12月、横浜の県立図書館の建て替えを視野に、「新たな魅力を備えた図書館」の再整備を表明したことに基づく。
 候補地として想定されるのは、同館に隣接する旧県立高等職業技術校の敷地。県立かながわ女性センター(藤沢市)の蔵書や、今後受け入れも想定される県立川崎図書館の一部蔵書などで県立の収容力が限界になるため、一定程度の規模の床面積を確保する必要がある。調査では、そうしたスペースの確保と、建築規制、費用などとの兼ね合いを検討する。
 県教委生涯学習課は「専門的、広域的な図書館としての役割や、市町村立図書館を支援する機能を維持した上で、利用者同士の交流の場やくつろぐスペースも設けたい」としている。


おさらい 県立図書館再編(中) 
明確な指標なし 利用者数では測れない


産業・科学技術分野の本がそろう県立川崎図書館。社史コレクションは全国最大級 =川崎市川崎区
産業・科学技術分野の本がそろう県立川崎図書館。社史コレクションは全国最大級 =川崎市川崎区


 県立2図書館の「閲覧・貸し出し廃止」が表面化した2012年11月、県教育委員会が「廃止」の理由として挙げたのが、2館の貸出冊数や来館者数だった。

 しかしながら、実は、図書館を評価する明確な指標は存在しない。昨年11月、横浜で開かれた県立図書館60周年記念パネルディスカッションで、筑波大名誉教授の薬袋(みない)秀樹は「評価項目も目標数値も示されない中で受け身に立たされつつ、環境の変化に対応しなければならない」と、現場のもどかしさを代弁した。

 図書館の存在意義は、利用者の多寡では測れない。横浜市西区の県立図書館、川崎市川崎区の県立川崎図書館にはそれぞれ、切実な思いで足を運ぶ人がいる。

開架式の出会い

 「ここに行けば資料がある、という安心感がある」。横浜市金沢区に住む大学生の佐野誠(21)は、県立図書館3階にある「かながわ資料室」に絶大な信頼を寄せている。

 神奈川に関わる歴史、地理、文化、民俗など多分野のコレクションをはじめ、県や市町村の議会録、調査報告書のような一般の書店に流通していない資料も収集。新聞各紙も製本され、その場で開いて読むことができる。本紙も前身の「横浜貿易新報」時代からずらりと並んでいる。

 佐野が郷土史に興味を持ったきっかけは、小学6年の総合学習。六浦道、金沢道、白山道-と、鎌倉時代にさかのぼる古道が地元・金沢にあるのを知り、歴史の厚みを感じた。中高に進学してからも学業の傍ら、市立図書館や学校図書館に通っては地域資料をひもとき、関心は金沢区から横浜、神奈川へと広がった。

 「かながわ資料室」との出合いは大学受験勉強中。もともとは自習のために立ち寄ったが、資料の豊富さに魅入られた。古い町名や字が記された過去の住宅地図から、地名の変遷や都市開発の経過をたどった。

 資料の地域的な広がりも魅力だった。例えば、横浜の水道史を調べるには横浜の資料だけでは足りない。水源地となる津久井地域や山梨県までをカバーする資料が必要となる。そういう広域の資料が1カ所でそろうのが「資料室」の強みだと、佐野は感じている。

 何より、利用者として最も重要なのは「開架式」、つまり本棚から自由に資料を手に取り、ページを開くことができることだ。「見当外れかな、と思いながら手にした本に、新たに興味を引く内容を見つけることがある。そういう出合いは、どんなに優れた検索システムでもあり得ない」

川崎にあるから

 「この街で働きながら、文学作品を残した有名無名の作家がいる」。横浜市港北区の相原進(80)は定年退職してから20年ほど、京浜地区のプロレタリア文学の研究に取り組んでいる。忙しく仕事をしていたころからの目標だった。

 県立川崎図書館は産業、科学技術分野に特化した、全国的にみてもかなり個性的な図書館だ。1万6千冊を超える社史コレクションは国内最大規模。相原は、文学史の背景にある企業活動、労働組合史について調べるため、何度となく同館に通っている。「例えば作家の高見順は川崎にあった日本コロムビア、昔の日本蓄音器商会に勤め、労働運動に関わっていた。それが彼の文学の下地になっていた」

 ほかにも川崎に暮らし小説「町工場」を残した小沢清、鶴見で働きながら小説「さむい窓」を記した熱田五郎…。戦前から大企業が数多く立地した川崎には、労働者の生きた証しも残っている。高度成長期に深刻化した公害問題の一連の資料も同館にある。

 相原が頼りにするのは、やはり「開架式」だ。一般にはほとんど出回らない珍しい社史も、同館4階の社史室に行けば自由にページをめくれる。加えて信頼するのは、図書館員の知識の幅広さ。「蔵書について実に細かく知っていて、丁寧に教えてくれる。非常に知的な施設だと思う」

 県教委は、川崎図書館の資料の大半を横浜の県立図書館に移す計画を進める。相原自身、横浜にも東京の国立国会図書館にも足しげく通う。だが、県教委の方針には反対する。「川崎に根差したからこそ、これだけの蓄積になった。これからも川崎にあるべきだ」


◆おさらい 県立図書館再編(下) 
タイムリミット 熟議欠けていないか


産業、科学技術の本が並ぶ県立川崎図書館。円い天窓は館の個性を象徴している =川崎市川崎区
産業、科学技術の本が並ぶ県立川崎図書館。円い天窓は館の個性を象徴している =川崎市川崎区


 タイムリミットが迫る。県立川崎図書館がある川崎市有地の借用期限は、2017年度末。市は一帯の市営富士見公園の再整備に合わせ、同館を取り壊して区役所や市民館を新築する計画を進める。そこへ来て12年秋、県教育委員会が「廃館」を表明。後に撤回したものの、立ち退きは免れない。前門の虎、後門の狼(おおかみ)のごとく進退窮まっている。

 県教委は「県立図書館新棟整備に向けた予備調査」を15年度当初予算に盛り込み、横浜市西区にある県立図書館に川崎の資料の大半を集約する方針だ。従来川崎が担ってきた企業支援の機能は、県関連施設かながわサイエンスパーク(KSP、川崎市高津区)に移すことで、利用者からの「市内存続」の要望に辛うじて応えようとしている。

窓がない閲覧室

 1958年に開館した川崎図書館は、国内最大級の社史コレクションや知的財産権に関する資料などをそろえ、産業支援の機能も充実。その個性が、実は館の建物に宿っている。

 54年に完成した横浜の県立図書館は、ル・コルビュジエに学んだ世界的なモダニズム建築家、前川國男(1905~86年)が音楽堂とともに手がけたことで知られる。中でも、後に図書館建築の専門家となる鬼頭梓(1926~2008年)は当時、前川事務所の一員として「あるべき図書館」を模索。窓が大きく明るい閲覧室は、戦前までの堅苦しく権威的な「読書室」のイメージから脱皮し、万人に開かれた本の世界を具現化した。戦後民主主義の象徴ともいえた。

 それに比べると、窓が少なく箱のような川崎館の建物は一見、横浜と正反対に見える。しかし建築史が専門の京都工芸繊維大教授、松隈洋は、そこにこそ同館の個性を見いだす。「建物の開口部を極力減らし外の騒音を遮ることが、この図書館には必要だった」

 国道に面し、川崎球場と競輪場に隣接する立地条件は、決して図書館に適していなかった。そこで設計者は閲覧室に窓を設けず外壁を二重にした。代わりにいくつもの円い天窓と当時珍しかった完全冷暖房を備え、内部の明るさ、静かさを確保したのだった。

 58年12月10日の本紙小中学生向け記事も「まわりのうるさい音をしゃだんし静かに本を読めるようにする点に一番苦心がはらわれています」と報じた。設計者は、横浜にあった創和建築設計事務所。後に横浜スタジアムなどを手がけた。

 

「場所性」顧みず

 徹底した防音設備を整え、あえて工業都市の中に“飛び込んだ”同館は、その性格も当初からはっきりしていた。同じ記事に「工都川崎にふさわしく、工業技術書に重点」とある。

 そんな同館ならではの利用者が、大手企業や大学、研究機関など約100団体が参画する「神奈川県資料室研究会」だ。61年に発足し、同館を拠点に600回もの例会を重ねてきた。

 「かなり突っ込んだビジネス支援をやってきた実績とユーザーがあるのに、もったいない…」。資料の大半を横浜の県立館に一本化し、企業支援機能と一部の資料だけをKSPに分離する県教委の方針に対し、「神奈川の県立図書館を考える会」を主宰する岡本真は疑問を呈する。「川崎駅周辺のビルなどを借り、そのまま残す方が効果的だ」

 なぜここにあり続けているのか、そして、どこにあるべきか-。来歴を顧みながら将来を見通す「場所の議論」が、県教委の再編過程には欠けていた。

 2012年秋に浮上した県立2館「廃止」案が撤回され、利用者は安堵(あんど)したものの、不信感が払拭(ふっしょく)されたわけではない。岡本は言う。「再編の検討過程を開示し、県民参加の機会を設けてほしい。それを実践する他県の例もある。もう少し県民を信頼してもいいと思う」

 「民主主義の砦(とりで)」と称される図書館の再編にこそ、熟議が求められている。

「神奈川の県立図書館を考える会」の政策提言 
 県立図書館を高い専門性を持った調査・研究型図書館に、また県立川崎図書館を科学・産業支援図書館として世界水準にまで充実させることを県教委などに求めた。県立図書館の場所は(1)現在地(2)2020年に移転予定の横浜市役所の跡地(3)県央・湘南地域(4)県西地域-を選択肢とする一方で、川崎館のKSP移転は「現行機能の縮小化を免れず適切ではない」と指摘した。

(おわり)

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