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旬感:A9・将 「この先の10年を描きたい」

カルチャー | 神奈川新聞 | 2015年3月26日(木) 03:00

ロックバンド「A9」のボーカル・将。バンドは8月に再始動が決定、「この先の10年を共に描こう」と呼びかけている
ロックバンド「A9」のボーカル・将。バンドは8月に再始動が決定、「この先の10年を共に描こう」と呼びかけている

「この先の10年を描くために必要な決断だった」。--ボーカルの将は静かに口を開いた。

 5人組ロックバンド「A9」が始動する。10年間所属していた事務所を離れて約半年。沈黙を経て、不死鳥の意味を持つ「Phoenix」を再生1曲目のシンボルに掲げ、8月にミニアルバム「銀河ノヲト」をリリースすることを発表した。そして盤制作のためファンと一体になったプロジェクト「クラウドファンディング」を導入することも公表。31日まで賛同者を募っている。

 インターネットなどを通じて不特定多数の人から資金を集めるクラウドファンディングは、リターンがない「寄付型」、プロジェクトの利益から配当金を分配する「投資型」、出資者が利子という形で一定のリターンを受ける「融資型」、支援のお返しに物やサービス、権利などの特典を受け取る「購入型」の4種があり、欧米ではクリエイターがアイデアを実現するために活用している。日本では東日本大震災の復興事業資金集めで取り入れられたことから注目され始めた。ただ、ゲーム業界などでは採用されることもあるが、音楽業界ではまれなこと。「音楽CDが握手券代わりになったりしている音楽産業の現状に疑問を訴えたい」と思ったことが導入を決めたきっかけだ。

 日本の音楽、ファッション、アニメなどのポップ・カルチャーを紹介する展示会はフランスの「ジャパン・エキスポ」を筆頭に米国などにも飛び火し、人気を拡大。X JAPANやLUNA SEAらに定義された「ビジュアル系」と呼ばれる音楽ジャンルに影響され生まれたA9らは「ネオビジュアル系」と呼ばれ、欧米には「VISUAL KEI(ビジュアル系)」の専門誌も販売されている。盤が売られていない国や地域のファンは、動画サイトなどを閲覧し情報収集をする熱狂ぶり。日本に常駐の自国記者を置き、リアルタイムでアメリカ、フランスなどに記事を配信する専門の音楽サイトも増加傾向にある。

 2012年に初めて行ったインドネシア・ジャカルタや、台湾・台北で、「A9が、日本が求められている」とファンの熱を肌で感じた。2014年には初のアジアワンマンツアーを敢行。現地ファンが日本語で口ずさむ姿を見て「自分たちの生の音楽を届けたい」という思いをかき立てられた。

 「生み出す音楽は、思い」だが、契約によるさまざまな制約は「届けたい」という気持ちを貫く足かせになった。「原盤権なんていらないから、世界中に曲を届けて欲しい」と願ったが、利益につながらないと耳を傾けてもらえなかった。5人の胸に生まれた危機感。「最大公約数を探すうちに、どこにでもあるものに落ち着きかけていた。これじゃこの先10年は見えない」と2014年8月18日、「自立のための、前向きな決断」として所属していた事務所から離れることを決めた。10周年を記念したライブを同23日に控えた突然の告白に、SNS上は「活動休止か、解散か」と大きな騒ぎになった。

 富士急ハイランド・コニファーフォレスト(山梨県富士吉田市)で2014年8月23日に開いた公演は、ファンの不安な気持ちを察したのか、冒頭から涙雨が降りしきった。バンドの中にたぎる血は止まることがない--。アンコールでは3章で構成された12分を超える大作「GEMINI」を演奏し、歌詞に込めた「心の底に 消えない炎を 点けたまま」という思いを音でも体現した。

 「止まっていた時、メンバー同士ばらばらになりそうだった時期もある」と振り返る。A9は原曲発案者が曲を詰めていく作業形態を取っていたが、現在は全員で練り制作課程を把握している。信頼の深さから年に数度だったミーティングも、いまは週に1度行い意見をぶつけ合う。話し合いの中で生まれた曲たちは、これまでと違う輝きを持つことに気がついた。

 クラウドファンディングを通じて伝えたいのは、「僕らの音楽を愛してくれるファンにも、制作に加わって欲しい」という思い。届けたいのは音楽--。そしてそれをタイムラグなく世界に同時発信したい。欲しいものは活動資金ではなく、より上質なものを届けるための“可能性”だ。「過去に経験したハーフオーケストラとの共演も、ファンが望み金額を達成することができればフルにできるかもしれない」と期待する。

 A9が選んだ「購入型」の目標値は500万円。使用用途はレコーディングや宣伝用の写真、ビデオ撮影費などで、公式サイトでは透明性を開示するため、費用内訳を公開していく。国内はもちろん、韓国や中国などライブを行った国から支持されているほか、ロシア、カザフスタン、スイスなど23の国と地域から100人以上が賛同し、目標額は超えそうだ。

 「原点回帰」とする不死鳥の歌詞では「夢は続く」「終わりの先 続くように」と願った。「いまは可能性しか見えない。アーティストとして、僕たちの中にある正義を貫きたい」と目を輝かせた。

◇しょう。7月5日生まれ。ギター・ヒロト、同虎、ベース・Saga、ドラム・Naoと2004年にロックバンド「アリス九號.(アリスナイン)」を結成。ボーカルを務めている。2011年1月にバンド初の日本武道館公演を実施した。世界約150の国と地域で放送されているNHKの音楽番組「J-MELO」が行った2013年の人気ランキングで3位を獲得するなど、国内外にファンを持つ。

【神奈川新聞】


A9(写真左から)ギターの虎、ドラムのNao、将、ギターのヒロト、ベースのSaga
A9(写真左から)ギターの虎、ドラムのNao、将、ギターのヒロト、ベースのSaga

シンガポール公演の様子
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