
60年の歴史を持ち、経営不振のため3月に休館していた映画館「横浜シネマリン」(横浜市中区)が12月13日、経営体制と設備を一新して再スタートを切る。従来、全国上映が一巡した旧作を中心に上映していたが、再開後は単館上映される質の高い作品やドキュメンタリーが専門の「ミニシアター」に生まれ変わる。シネコン(複合型映画館)全盛の中、同様の施設の存続は厳しいのが実情だが、映画好きが高じて新オーナーとなった八幡温子さん(58)は「良質の映画を通して地元の映画文化を育みたい」と、あえて挑戦する。
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「横浜シネマリン」は1954年に開業。旧作やアニメ作品などを上映してきたが、近隣へのシネコンの相次ぐ進出で客足が遠のき、休館に追い込まれた。
同市保土ケ谷区在住の八幡さんは、独自に上映会を開いてきた市民映画サークル「横浜キネマクラブ」に長年所属し、「映画文化を育てるには、いい映画を長期間上映できる拠点が必要」と感じてきた。同館の旧オーナーと交渉し、会社を買い取った。
新生シネマリンでは、最新のデジタル再生装置1台と、旧作上映のための35ミリ映写機2台を導入。スクリーンは縦2・5メートル、横5・8メートルと、これまでのおよそ倍の大きさとなる。また、監督あいさつなどが行える小さな舞台を新設し、女性トイレとロビーのいすも増設した。
座席は交互にゆったりと設置したため観客数は165人から102人へと減ったが、見やすさと快適さを向上させた。
こだわりの映画を上映するミニシアターは、苦境にある。シネコンの進出やレンタルビデオの普及などで、都内でさえ、複数の名門単館上映館が閉館を余儀なくされてきた。
市内のミニシアターは現在、中区内の「シネマ・ジャック&ベティ」などごくわずか。同館の梶原俊幸支配人(37)は、そうした状況であえて誕生するミニシアターにエールを送る。「横浜も小さな映画館の経営は厳しいが、質の高い映画を見たい潜在需要は高い。シネマリンの再開はいいこと。手を携えて頑張りたい」
準備に奔走する八幡さんは「質の高い映画はもちろん、女性監督や女性の視点で製作された作品も上映したい」と意気込んでいる。
12月12日はプレイベントとして小津安二郎監督のサイレント映画「青春の夢いまいづこ」を柳下美恵さんのピアノ伴奏付きで上映。13日からはエーリク・ポッペ監督の映画「おやすみなさいを言いたくて」を上映する。問い合わせは、八幡さん電話090(6346)0906。
【神奈川新聞】