葉山町で生まれた生ごみ処理器「キエーロ」がじわじわと普及している。購入費を補助したり、無償で貸与したりする自治体は着実に、全国に広がっている。自然の力を使ったシンプルな仕組みで生ごみを激減できる「救世主」であり、爆発的な普及を期待したい。
キエーロは葉山町の松本信夫さんが十数年かけて考案。横長の箱に入れた土に生ごみを埋めるだけだが、透明のふたを付け、風通しをよくする構造にしていることで、バクテリアの動きを活発にし、生ごみを効率的に分解する。
土の中にもともといる微生物の力を活用しているので、いったん設置すれば追加費用はかからない。貝など分解できないものもあるが、生ごみは大半が水分なため、埋め続けてもほとんどかさは増えない。おまけに、生ごみが分解してできた土は堆肥として使える。
性能に加えて特筆すべきことは、ホームページ上で作り方を公表していることと、庭だけでなくベランダに置くタイプがあることだ。自作したり、マンションなど一戸建て住宅以外でも使えるようになったことにより、ユーザーの裾野がぐんと広がっている。
発祥の地の葉山町では、自作するより安い千円で購入できる補助を実施。隣接する逗子市や鎌倉市も購入費の大半を補助したり、3市町で連携して活動するなど、普及を後押しする自治体が広がっている。
逗子市商工会は、東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市の津波対策で伐採した杉を使用し、仮設住宅の居住者が製造するキエーロを逗子市内で販売している。生ごみ削減を、被災地支援を兼ねた活動に発展させている画期的な事例だ。これとは別に、大震災で発生した廃材で作ったキエーロを仮設住宅に設置する取り組みもあった。
可燃ごみの約3割を占めるという生ごみを激減できれば、焼却場や最終処分場も延命できる。新設をめぐって反対運動が起き、地域で確執が生まれるような事態が発生する恐れも減らすことができる。
キエーロの普及は廃棄物処理のコストを飛躍的に低減できる「静かなる革命」だ。しかし、使ってみないと、その性能を理解することはなかなか難しい。廃棄物行政を担う全国の自治体は今以上に、キエーロの普及に力を入れてほしい。
【神奈川新聞】