物忘れのひどさでは人後に落ちない。一方で驚くほど記憶力の優れた人がある。話をしていると、こちらがすっかり忘れている過去の行いが暴露される。「そんなことしたかなあ」と言いつつも、恥ずかしくてたまらない▼「忘却」をキーワードに、現代アートの国際展「ヨコハマトリエンナーレ2014」が横浜美術館などを会場に開催中だ。「暮らしの中で大切なことを忘れたり、気が付かないふりをしてはいないだろうか」。アーティスティック・ディレクターの現代美術家・森村泰昌さんの言葉は示唆に富む▼戦争や暴力、大規模災害…。急ぎ足の日々で、人類は忘れてはならない記憶すら置き去りにしかねない。忘却が過ちの繰り返しにつながるとすれば恐ろしい▼子ども時代に大事な宝物を入れた小箱は、成長過程でなくしてしまうものだ。芸術家とは宝箱の中の世界を忘れることができず、大人になり切れなかった「恐るべき子ども」かもしれない。芸術の力を借り、忘れ物を探す旅には何かが待っていそうだ▼現代アートは苦手という人もいる。森村さんは著書で、美術鑑賞の極意は「頭の中をまっしろにする」ことだと書いている。既成概念にとらわれず作品と向かい合ってはどうだろう。同展は11月3日まで。
【神奈川新聞】