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恐竜学者、ジャック・ホーナー
【ひとすじ】心を開き常識の壁破れ

カルチャー | 神奈川新聞 | 2014年7月22日(火) 09:58

実物大のティラノサウルスのロボットを見上げるジャック・ホーナー博士=パシフィコ横浜
実物大のティラノサウルスのロボットを見上げるジャック・ホーナー博士=パシフィコ横浜

ジャック・ホーナー(68)は会場の反応を楽しんでいるようでもあった。

恐竜学者として監修に当たったヨコハマ恐竜展が開幕した16日、恐竜ファンや子どもたちを前に講演に立った。

スクリーンに映し出された太古の世界。ティラノサウルスが牙をむき、巨大な角を持つトリケラトプスとにらみ合う。

いずれが最強か-。

ファンならずとも空想の世界で思い描く対決シーンだ。

「答えはノーだ。こんなことはあり得なかった」。ホーナーは続けた。「トリケラトプスの角は空洞になっている。戦ったり、身を守ったりするためには使えない。すぐに折れてしまうからね」

角があるさまざまな恐竜のイラストを示し、「どの角も横を向いたり、後ろを向いたりしている。これで戦えると思うかい」。老博士の講義にすっかり引き込まれている子どもたちが一斉に首を横に振る。

では、ティラノサウルスは。

「彼らは死んだ恐竜の肉を食べていた。足が遅く、狩りには向いていなかった。歯だって成体のものは骨を砕くのに適している。ハイエナのように、死んだ生き物の肉を食べていたんだ」

肩すかしを食らい、どこかがっかりしたような空気が会場を包んだ。

■真骨頂

トリケラトプスの角は何のために生えていたのか。

「成長につれて大きさ、角度が変化しているのが分かるだろう。つまり、子どもと大人を見分けるためのものだった」

会場には、トリケラトプスの頭骨が大小七つ並べられている。大きさの違いから別の種類と思われていたが、いずれも同じトリケラトプスで、小さいものほど若い個体であることが博士の研究で分かった。

化石を切断し、断面の細胞組織を調べ、初めて明らかになったことだった。恐竜の「胎児」を世界で初めて発見するという偉業もそうだった。

「一般の学者は恐竜の卵の化石を宝物と考えた。私には卵の中に残っているものこそが宝物だった。殻をハンマーで壊すと言ったら、もちろん反対された。でも、それではプレゼントをもらって箱を開けずにいるようなものだ」

定説を覆し、恐竜が社会性を持ち、群れをつくって生活していたといった数々の新発見をしてきたホーナーの真骨頂。

「恐竜が角で戦うという発想は、多くの科学者がウシやシカなど、角を戦いに使う哺乳類をイメージするからだ。恐竜は爬虫(はちゅう)類や哺乳類より、鳥に近い生き物。鳥はどうなのかと考えてほしい」と、ニューギニアに生息する鳥ヒクイドリを引き合いに出す。「ヒクイドリが持つ大きなとさかは成体の証し。恐竜の角でも同じことがいえる。角は大人の証しなんだ」

ダチョウ目の飛べない鳥、ヒクイドリ-。

子どもたちは、硬く分厚い緑色の皮膚をして、猛々(たけだけ)しく、強いイメージからなかなか離れられないよう。今まで抱いてきた恐竜観を覆された失望と、わくわくするような思いが会場を交錯する。

ディスレクシア(読字障害)のため、過去の文献に頼らず研究に励み、いまも読み書きの能力が小学3年生程度であることを公言するホーナーは繰り返す。

「大切なのはオープンマインド、心を開くことだ」

スクリーンには極彩色の恐竜がダンスを踊るイラストが映し出された。

「鳥はダンスを踊り、自らの存在を誇示する。恐竜も近い存在と考えるのが自然だ。恐竜は鳥のように華麗で美しい生き物だったと思う。うなり声を上げ、殺し合う場面ばかりではなく、美しい声で鳴き、自らの美しさを競い合う姿を頭に描いてほしい」

■逆進化

会場から質問が飛ぶ。

「ティラノサウルスは死んだ肉だけでおなかがいっぱいになったの」「トリケラトプスは角以外でどうやって身を守ったの」「どうして恐竜は絶滅し、鳥は今も生きているのですか」

ホーナーは分からないことは分からない、とはっきり口にする。「それは君が答えを見つければいいんだ」

「どうしたら恐竜博士になれますか」という質問には、こう答えた。

「大きくなったら私の大学へ来てください。あなたがどんな新しい発見をするのか、楽しみにしているよ」

そして、分からないなら復活させてみればいいという発想で取り組むのが、恐竜を現代によみがえらせるプロジェクトだ。

自身がモデルになった映画「ジュラシック・パーク」では、恐竜の血を吸ったまま琥珀(こはく)に閉じ込められた蚊から恐竜の血液を取り出し、DNAを復元した。ホーナーも恐竜の化石からDNA採取を試みたが、かなわなかった。

そこで用いるのは、恐竜に最も近い存在と考える鳥類だ。例えばニワトリは、卵の中、胚の段階では恐竜の尾や前足の名残をとどめているが、成長につれて尾は短く、足も鳥類のそれになってゆく。「その成長を止めることで、恐竜に近い生き物を誕生させることができる」。進化の過程を巻き戻す試み。その名をチキンから取った「チケノサウルス」を誕生させようとしている。

首にひもをくくり付けたチケノサウルスとともにステージに登場する自分の姿を夢見る。「この生き物は一体何でしょう」と聴衆に問い掛ける。どうやって生み出したのか。鳥と恐竜はどこが違い、どこが同じなのか。議論が始まる。

「いつかまた横浜に来る時、一緒に連れてきたい。楽しみにしていてほしい」

実現を信じてやまないのは、いますぐは難しくとも、若い研究者たちが「できない」という常識の壁を打ち破ってくれるという確信があるからだ。かつての自分がそうであったように。

故郷の米国モンタナ大で教壇にも立つホーナーは言う。

「先生というものは、先生を批判するような生徒を育てることが大事だ。そうすることで新たな発見が生まれる。私はだから批判されるのがうれしい」

そして繰り返す。

「大切なのは、オープンマインドなんだ」

=敬称略

〈おわり〉

【神奈川新聞】

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