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横浜 傾斜マンション 施工ミスに構造的背景 手厚い検査体制必要

カルチャー | 神奈川新聞 | 2014年7月10日(木) 12:00

「杭の長さ不足のイメージ」
「杭の長さ不足のイメージ」

横浜市西区のマンションで杭(くい)が固い地盤に届いておらず、傾いていた問題は施工ミスが原因とされるが、基本的かつ致命的な欠陥はなぜ見落とされたのか。マンション問題に詳しい1級建築士や業界関係者からは構造的なひずみを指摘する声が上がる。いわく「公になっていないだけで、危険なマンションは数多く潜んでいるはずだ」-。

問題のマンションで6月10日に居住者でつくる管理組合が開いた記者会見。販売会社の住友不動産とのやりとりの一部が明らかにされた。

居住者側「横浜市に相談しようと思う」

住友不動産側「すべての居住者から同意を取らずに、そんなことやっていいと思ってるのか」

居住者の一人は「脅し」と受け止めたと明かす。

「販売会社の担当者からまさに恫喝(どうかつ)された。要は『こんなこと(建物の傾斜)が表に出たら資産価値がなくなる。それでもいいのか』という趣旨だった」

致命的な欠陥が公になれば、資産価値は失われ、転売は望めない。居住者の大半はローンを抱えており、転居しようにも身動きが取れない。

一方、販売会社や施工業者からすれば重大な施工ミスの発覚はマンション単体の問題にとどまらず、企業ブランドに大きな傷がつくことになる。

居住者は「公表するかどうか。私たちも相当迷ったというのも事実」と打ち明ける。

棟と棟をつなぐ通路の手すりにずれが見つかったのは分譲3年後の2003年。以来、施工ミスを認めるどころか、調査すらしようとしない販売会社の対応に業を煮やし、記者会見に踏み切ったという。

居住者は「ようやく瑕疵(かし)を認めたが、到底納得などできない」と深いため息を吐いた。

■見た目だけの修繕

欠陥マンションの問題に詳しい1級建築士の田中正人さん=よこはま建築監理協同組合専務理事=は「居住者と販売会社、施工業者の双方の思惑が絡み合い、内々に解決しようとするケースが大半」と指摘する。

表沙汰にならないため、業者側が襟を正す機会もないまま、ずさんな施工が繰り返されるというわけだ。実際、田中さんに寄せられる相談で、施工ミスが疑われるケースは後を絶たない。

横浜市内にある大規模マンションでは13年1月、外壁のタイルが畳半分ほどの範囲で浮き、うち半分が剥落した。タイルの浮いた箇所が複数見つかり、貼り直す修理を繰り返していた。田中さんは直ちに耐震スリットやタイル貼りの施工ミスを疑った。「つまり構造上、根本的な問題があるということだ」

耐震スリットとは、鉄筋コンクリートの柱と壁との間に入れる緩衝材。地震の際、壁の揺れが柱に伝わるのを避け、建物の破断を防ぐ重要な部材だ。

だが、施工時に生コンクリートを丁寧に流し込まないとスリットが曲がったり、ずれたりする。そうなれば設計上見込んだ耐震性を保てなくなる。

田中さんが続ける。

「販売会社や管理会社は大抵、『経年劣化』や『コンクリートが乾燥し、縮小したことによる亀裂』と説明し、それ以上詳しい調査はしない。見た目だけ修繕して終わりというケースが大半」

都内の物件ではスリットのずれをめぐり、建設会社と居住者が係争している案件があるという。田中さんの指摘によって調査が実施され、発覚したものだった。

斜面地に立つ湘南地域のマンションではやはり手すりのずれが見つかり、2008年から経年変化を調べ続けている。「通常、完成から10年で大規模修繕が行われるが、そのための調査で問題が見つかっても民事上の瑕疵担保責任の時効を過ぎてしまう。完成後3年で第三者による検査をするなど、制度的な対応が必要になるだろう」と指摘。「決して『自分のマンションは大丈夫』と過信しないでほしい」と警鐘を鳴らす。

■社会問題化踏まえ

5日、欠陥住宅被害全国連絡協議会が全国同時に実施した電話相談。関東地方だけで一戸建て住宅やリフォームなども含め65件の問い合わせがあった。

関東エリアの相談を受けた高木秀治弁護士=東京都中央区=は「そもそも、設計の基となる構造計算を法令上不適切な設定で造っているマンションも少なくない。構造計算自体、恣意(しい)的に手を加えるといった抜け道があり、十分な耐震性のない物件も潜在的にあるのが現実」と指摘する。

耐震スリットがまったく入っていなかったというマンション居住者から相談があったといい、業者は瑕疵を認めているが、解決までには時間がかかりそうだという。「業者の多くは素人である居住者の足元を見て、ずるずると時間だけ先延ばしするケースが少なくない。できるだけ早い段階で詳しい専門家に相談してほしい」と高木弁護士。

そもそもの施工不良はなぜなくならないのか。

県内のゼネコン幹部は明かす。「販売会社から『納期を守れ』『もう少し安くできるはずだ』と見積もりをたたかれる。やり直せば施工費が余計にかかるため、ささいなミスは言いだしにくい関係がある」と実態を明かす。

さらに「杭の施工業者と左官、配筋、タイル屋とすべて別の業者が施工する。前段階の施工が多少悪くても、指摘すれば工期が長引く。そのため見て見ぬふりをして施工を続けることで施工不良が生まれる」。分業化が進み、効率的な施工が可能になった一方で、責任の所在が分かりにくくなる構造が浮かび上がる。

前出の田中さんは「総工費14億円のマンションで瑕疵が見つかり、タイルを全て貼り直したところ、仮転居費用や慰謝料で総額16億円かかった物件もあった。リスクを考えれば、黙っていていいことはない。社会問題になりつつある状況を踏まえると、より手厚いチェック制度が必要だ」と指摘している。

【神奈川新聞】


記者会見を開きこれまでの経緯を説明するマンション管理組合の理事ら=6月10日
記者会見を開きこれまでの経緯を説明するマンション管理組合の理事ら=6月10日

横浜市西区のマンションで、棟が傾き、隣棟との通路でずれが生じた手すり(マンション管理組合提供)
横浜市西区のマンションで、棟が傾き、隣棟との通路でずれが生じた手すり(マンション管理組合提供)
 
 

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