川崎大師平間寺(川崎市川崎区)で江戸時代から続く「大開帳奉修」が、5月1日に始まる。本尊を拝め、特別な護符「赤札」が授与される10年に1度の伝統行事。御利益を求める参拝客が境内にあふれ、門前町も連日にぎわいをみせる。250年以上にわたる歴史に向き合う寺の関係者や、10年ぶりの「『赤札』到来」に活気づく地元の人たちの声を通し、地域に息づく大開帳の意味を探る。
朝6時。かねを打ち鳴らしながら、独特の節回しで「南無阿弥陀佛(なむあみだぶつ)」と唱える声が大本堂に響く。それに合わせ、「御戸帳(みとちょう)」という金襴(きんらん)の大きな幕が開き、普段はシルエットでしか見られない本尊の弘法大師像が、その姿を現す。
5月31日までの毎日、参拝者に授与され、行列ができるほど人気なのが「赤札」。弘法大師の直筆と伝わる「南無阿弥陀佛」の6文字を、貫首が一つ一つ手刷りしたお守りだ。
「『無量の功徳を授かる』と言う通り、どんな場面でも身に着けていれば、守ってくれるということです」
こう話すのは、同寺教化部長の山田俊法さん。ただし授与のタイミングは「貫首の感得による」といい、「前回は1日3回出ることが多かったのですが、今回はまだ始まってないので分かりません」。
連日さまざまな法要が執り行われる大開帳。その歴史は江戸時代にまでさかのぼる。寺史によると、記録に残る初開催は1751(宝暦元)年。昭和期は1934(昭和9)年に初めて開かれ、戦時下での開催となった44(同19)年は1週間と短く、「戦時服で参拝するという時代を反映したものだった」という。
戦後初は64年。同寺は戦禍でほとんどの建物を失い、大本堂の完成に合わせて20年ぶりに開かれた。
「とにかく人が多かった。高度経済成長期で、みんな明るかった」
寺の大山門正面からのびる「仲見世通り」でだるま店「かどや開運堂」を営む石川弘一さん(81)は、当時をこう振り返る。「まさに映画『三丁目の夕日』の時代。東京オリンピックや新幹線が開通した年で、日本は復興したんだな、良くなったんだなと感慨深かった」
開催初日に向けた準備は大詰めを迎え、直前には大本堂の前に高さ約10メートルの「供養塔」が建てられる。
「供養塔が建つと『ああ始まったな』という感じですね」。山田さんはこう話し、笑みを浮かべる。
まち全体が高揚感に包まれる大開帳は、寺にとって特別な祭事であり、地域の人たちにとっても人生と重なる節目になっている。
【神奈川新聞】