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【シネマ散歩】
【ソワレ】当てのないひと夏の旅

カルチャー | 神奈川新聞 | 2020年8月28日(金) 17:34


 28日からTOHOシネマズ川崎などで上映中。

 俳優の豊原功補と小泉今日子が初めて映画プロデュースに挑んだ「ソワレ」。雄大な自然を背景に物語が進む本作は、罪を犯して追われる身となった若者2人の逃避行を描く。

 役者としての成功を夢見て上京するも、芽が出ずに鬱屈(うっくつ)している翔太(村上虹郎=写真右)。ある夏の日、故郷・和歌山の高齢者施設で演劇を教えることになり、そこで働くタカラ(芋生悠(いもう・はるか)=同左)と出会う。物憂げな空気をまとう彼女には、父親から性暴力を受けた凄惨(せいさん)な過去があった。

 タカラが起こしたある事件をきっかけにして、2人は逃亡する。多くは語らないまま、互いの孤独を埋めるように、肩を並べて駆けていく。どこか諦めるように生きてきた2人が、ぶつかりながらも信頼でつながるさまは、痛ましいほどに切なくていとおしい。

 若者の苦悩を実直な芝居で見せた村上、芋生が鮮烈な印象を放ち、静かに流れる弦楽器の音色と映像美が深い余韻を残す。場面が切り替わるごとに聞こえる波の音はまるで呼吸のよう。痛みをも包み込みそうな広大な海と月明かり、穏やかな田園風景に、ささやかな希望を胸にともした男女の心情を重ね合わせる。

 タカラが時折見せるしぐさが一つの伏線となり、ラストに花開く。当てもなくさまようひと夏の旅は、傷を負った若者に生きる意味をもたらす、幸福なものだった。

監督/外山文治
製作/日本、1時間51分

 
 

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