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【連載】神奈川フィルの再生(上) 厳しさは今後も続く

カルチャー | 神奈川新聞 | 2014年3月30日(日) 12:11

神奈川フィルハーモニー管弦楽団によるブルーダル基金コンサート。この公演の収益を合わせて個人寄付金が1億円を突破した=2013年4月15日、県民ホール
神奈川フィルハーモニー管弦楽団によるブルーダル基金コンサート。この公演の収益を合わせて個人寄付金が1億円を突破した=2013年4月15日、県民ホール

慢性的な赤字を抱え、一時は楽団解散の岐路に立たされた神奈川フィルハーモニー管弦楽団。困難を乗り越え今月、無事に公益財団法人に認定され、存続が決定した。「償還は不可能」ともいわれた負債を解消できたのは、行政と企業、県民が三位一体となって支えた“オール神奈川の力”による。だが、多くの関係者の表情は吉報にも晴れない。「今後も厳しさは続く。それは日本のほかの楽団も同じ」-。いまあらためて、神奈川フィルのケースから垣間見える日本の現状と課題を考える。

■楽団解散の危機

「本当につぶれてもおかしくない状況だった」。楽団の大石修治専務理事は、楽団再建のために民間から就任した2006年当時を、こう振り返る。

それまでの3年間、事務局長が不在で経営の管理ができていない状態だった。慢性的な赤字は30年以上にわたって累積し、ピーク時の03年には5億円まで膨らんだ。事務所が老朽化しても直すことすらできず、何より「音楽は楽しい」と伝えるはずの楽団員の心が疲弊し、停滞感がまん延していた。

追い打ちを掛けたのが、08年の国の公益法人制度改革。税制面の優遇がある新法人に移行しなければ経営的に持ちこたえられないが、法人申請の期限は13年11月末まで。しかも「純資産300万円の保持」が条件だった。

当時の債務超過は約3億円。期限内にこれだけの金額を償還できるのか。1970年から続く楽団の歴史に終止符を打つという選択肢が、現実味を帯びていた。そのような状況に飛び込んだのが、大石専務理事(当時常務理事)だった。

それまでに行われていた26%に及ぶ賃金カットでも、債務の解消には程遠かった。大石専務理事は民間のノウハウを取り入れた組織改革を断行。一層の経費削減はもちろん、野放し状態に近かったマネジメントとマーケティング、営業や広報に力を入れ、低迷していた定期会員数の増を図った。さらに財務や人事など、専門の人材を起用した。

2011年2月には、危機的状況を知った知事や横浜市長、企業経営者らが「がんばれ!神奈フィル 応援団」を結成。日本初となる官民一体の寄付金制度「ブルーダル基金」を展開し、後押ししてくれた。

基金では、個人から寄せられた寄付と同額を、県と横浜市などの市町村が助成する「マッチング方式」を導入し、13年4月には負債をクリアできる見通しが立った。「本当に奇跡ですよ、今思えば」。楽団再建に苦心した大石専務理事の目は潤む。

■苦しい資金繰り

結局、楽団を救ったのは寄付金だった。実は、演奏会収入だけでオーケストラの経営を賄える楽団は、国内外を含めほとんどない。特に財政基盤が脆弱(ぜいじゃく)な日本の地方楽団にとって、国や自治体の助成金は命綱だ。

そもそも日本のオーケストラの財政は、どのようになっているのか。「収入形態は三つに分けられる」と話すのは、日本オーケストラ連盟の支倉二二男常務理事。連盟には正会員、準会員の計33団体が加盟する。

一つは「スポンサー型」。NHK交響楽団(N響)、読売日本交響楽団などがこれにあたり、スポンサー団体の助成に支えられている。ほかはスポンサーをもたない「自主運営型」、そして地方自治体がある程度の助成をする「地方型」。神奈川フィルは後者だ。

たとえば2012年度、N響は日本放送協会から14億円の助成を受け、財政基盤は安定している。地方型でも東京都から年間約10億円を受けた東京都交響楽団のような例はある。だが、これは少数派。多くの楽団は資金繰りに苦しんでいるのが実情だ。

■負のスパイラル

どの楽団にも共通するのが、人件費の圧迫だ。神奈川フィルの同年度の事業活動収入は7億5千万円だったが、指揮者やソリストなどを含めた支出はうち7割を占める。団員は67人、平均年齢49歳。しかし、平均年収は約400万円程度と、決して高くない水準におかれている。

オーケストラコンサートでは、忠実に曲を再現するために、編成(演奏家数)を減らすことはできない。多人数が必要である分、神奈川フィルを含め国内の大半の楽団は、楽団員の賃金水準が低く、待遇改善を課題とする。「生命の危機にさらされたタコが自分の足を食べて生きながらえるように、楽団員やスタッフの人件費をコストカットすることでやっと楽団が存続できる状態」と支倉常務理事はたとえる。待遇が悪ければ、楽団員のモチベーションが低下する。そうした“負のスパイラル”から抜け出せないのが、日本の楽団の現状なのだ。

■楽団受難の時代

「府に根付いているとはいえない」。2011年、大阪。橋下徹前知事が日本センチュリー交響楽団(旧大阪センチュリー交響楽団)の補助金を打ち切り衝撃が走った。同楽団は、1989年に大阪府が20億円を出資して設立した。

年間の運営費は約7億円。うち約4億円を占めていた府の助成金が、なくなってしまった。現在、楽団は府から独立し、20億円の基本財産を切り崩しながらスポンサー探しに奔走する。

これは氷山の一角だ。「各地のオーケストラの生い立ちはさまざまだが、行政とのパートナーシップで運営されている楽団が多い。その両輪の関係が今、崩壊しつつある」と支倉常務理事の表情は暗い。

日本だけにとどまらない。2011年4月、米国の五大オーケストラのひとつ、フィラデルフィア管弦楽団(1900年創立)が連邦破産法に基づく更生手続きを申請した。米国経済が低迷する中、公演収入や寄付金が落ち込み、2008年に44億円あった収入が翌年に半減したことが理由とされている。同国で大規模なオーケストラの破産は初めてで、「世界トップクラスのオーケストラはつぶれることはない」という神話は崩壊した。

昨年10月にも名門歌劇団「ニューヨーク・シティ・オペラ」が資金繰りに詰まり、70年の歴史に幕を下ろしたことも記憶に新しい。米国だけでなく、欧州各地でも楽団の経営難の話題はことかかない。日本に比べてはるかに高い人件費を抱えながら、世界的不況により民間の寄付金や公的支援は激減している。オーケストラ受難の時代は、世界共通なのだ。

【神奈川新聞】

 
 

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