造形作家の高橋士郎(78)が、薄いナイロンの布に空気を詰めた巨大な造形物約40点によって「古事記」の雄大な世界を表現した「高橋士郎 古事記展 神話芸術テクノロジー」が、川崎市岡本太郎美術館(同市多摩区)で開催中だ。神々の「気宇壮大」な存在を、子どもから大人まで世代を超えて楽しむことができる。
高橋は1960年代にコンピューター制御のアート「立体機構シリーズ」を制作。80年代には風船を素材にした「空気膜造形シリーズ」を発表し、芸術にコンピューターやテクノロジーを浸透させた立役者として世界各地で活動してきた。
「古事記展」は空気膜造形研究の集大成に当たり、古事記に登場する神々を皮膜構造体で表現。世界の始まりからイザナギのみそぎによってアマテラスらが生まれるまでを「別天(ことあまつ)」「七代(ななよ)」「生国(くにうみ)・生神(かみうみ)」「黄泉(よみ)」「禊(みそぎ)」の五つのコーナーに分けて、奇想天外な古事記の世界を表した。
イザナギとイザナミが国生みの後で最初に生んだ神・大事忍男(おおごとおしお)は、巨大な赤ん坊の姿をしている。モーターと送風機で、手足がバタバタと動く。
「黄泉」に配置されたイザナギはうつぶせになり、大きな力こぶがゆさゆさ揺れる。イザナミはまばたきをする。
「禊」には、黄泉の国のけがれから生まれた災厄の神・大禍津日(おおまがつひ)が巨大な渦を巻いて横たわる。その近くで再生の神・神直毘(かむなおび)が木の枝のような造形を、広げたり閉じたりする。ヒトデの触手のような免疫の神・大直毘(おおなおび)も。新型コロナウイルスという大きな災厄に見舞われた現実の世界を象徴しているようだ。
こうした造形ロボットを高橋はバボットと名付け、同名の制作会社を設立。同社の有馬拓也代表によると、高橋はドローイングを繰り返し、布と対話しながら作品を作り上げるという。「森羅万象を美術から俯瞰(ふかん)するライフワークです」
同館の片岡香学芸員は「こういう(コロナ禍の)時期ですので、黄泉の国をたどって再生の神や浄化の神に出会い、免疫力を付けていただきたい」と来場を呼び掛けた。
10月11日まで。8月10日と9月21日を除く月曜と、8月11日、9月23日休館。一般900円、高校・大学生・65歳以上700円。問い合わせは同館、電話044(900)9898。