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ヨコハマトリエンナーレ2020 社会のありようを問う

カルチャー | 神奈川新聞 | 2020年7月29日(水) 18:29

 3年に1度行われる現代美術の国際展「ヨコハマトリエンナーレ2020『AFTERGLOW-光の破片をつかまえる』」が、横浜市西区の横浜美術館とプロット48などで開催中だ。さまざまな国と地域から67組のアーティストが参加。コロナ禍での開催に踏み切った会場では感染予防に徹しながら、過去から現代までの社会のありようを多様な形で問い、見直しを促す作品が並んでいる。

■ 現実投影する作品


ニック・ケイブ「回転する森」
ニック・ケイブ「回転する森」

 横浜美術館の建物は、工事中のように黒っぽいカーテンで覆われている。イバナ・フランケの作品で、見慣れた物の表面を隠し、別の見え方を示唆する。同様に、戦時中に兵士の無事を祈って縫った「千人針」の一針一針をクローズアップで捉えた川崎市出身の写真家、新井卓(たかし)の作品も、非常時の国家体制と個人という過去を通して、現代社会への視点の転換を促す。

 米国で庭の装飾に使われる「ガーデン・ウインド・スピナー」を大量につるしたのは、ニック・ケイブの「回転する森」。光を反射してくるくると回り、美しく輝くスピナーだが、銃やピースマークなどのモチーフが見える。1992年のロサンゼルス暴動をきっかけに作られた作品で、人種差別が現在も続く厳しい現実を突き付ける。


インゲラ・イルマンの「ジャイアント・ホグウィード」(中央)
インゲラ・イルマンの「ジャイアント・ホグウィード」(中央)

 インゲラ・イルマンの「ジャイアント・ホグウィード」は、19世紀に鑑賞用として中央アジアから欧州に持ち込まれた植物を巨大化した立体作品。後になって樹液に強い毒性があると判明したという。美と毒の共存を考えさせる。


塩分を含んだ川の水を吹き掛けるメイク・オア・ブレイクの「橋を気にかける」
塩分を含んだ川の水を吹き掛けるメイク・オア・ブレイクの「橋を気にかける」

 今年1月から2月にかけて横浜に滞在したオーストラリアの2人組「メイク・オア・ブレイク」による「橋を気にかける」は、参加型の作品だ。横浜市内の太田橋、打越橋、末吉橋に取材し、それぞれの橋の特徴的なパーツを組み合わせた鋼の橋を展示。来場者が塩分を含んだ川の水を霧吹きで吹き掛けることで、次第にさびが生じていく。

 プロット48に並ぶラヒマ・ガンボの映像作品「タツニヤ(物語)」は、ナイジェリアでイスラム教の過激派「ボコ・ハラム」に襲われた学校が舞台。危険を避けて戻ってきた少女たちは独学を続けながら、友情を育む。その屈託のない様子を映し出す。


エバ・ファブレガス「からみあい」。健康グッズに着想を得ているが、人間の腸にも似ている。手指を消毒して触ることができる
エバ・ファブレガス「からみあい」。健康グッズに着想を得ているが、人間の腸にも似ている。手指を消毒して触ることができる

 同会場には性をテーマにした作品が多い。「黄金町バザール2019」にも参加したエレナ・ノックスによるエビの生殖をテーマにしたユニークな作品群や、シダ植物と人間の性愛を巡るジェン・ボーの映像などが並ぶ。

■ リモートで準備

 海外アーティストが来日できないため、展示作業はオンライン会議などリモートで進められた。同展の企画統括を担う木村絵理子学芸員は「最初に想像したよりも大変ではなかった。特定の地域ではなく、世界中の問題が一つになったので、みんなの気持ちも一つになり、自分たちの問題として捉えるようになった」と振り返る。

 3月下旬に主催者が集まり、予定通りに準備を進めながら開催できる形を探ると決定。アーティストらに改めて参加を確認したところ「私たちの暮らしを見直す機会になるとして、断る人はいなかった」という。

 ロックダウンが厳しいドバイ在住のアーティスト、ランティアン・シィエから「世界中の展覧会がキャンセルになる中で、ヨコハマがいち早くやると知らせてくれた。オンラインで、毎週のようにやりとりできたことがよかった。ありがとう」と言葉を掛けられ、「前に進んでいく時間と捉えてくれて、うれしい気持ちになった」と木村学芸員。

■ 先を見据える力

 アーティスティック・ディレクターを務めるインド在住の3人組アート集団「ラクス・メディア・コレクティヴ」(ラクス)は昨年11月、異なる地域や時代を生きたさまざまな人々から読み取ったイメージを、アーティストや鑑賞者に“ソース”として共有した。

 ソースには「独学」「発光」「友情」「ケア」「毒」という五つのキーワードがあり、コロナ禍の現状を言い当てたようだ。

 横浜美術館の蔵屋美香館長は「例えば、(コロナ禍で)これだけ傷ついた中でお互いをいたわり、友情を育むことが、どれだけ励ましになるか、など、現実感をもって伝わってくることになった。これからの社会で起こることをつかまえてくるのがアーティスト。ラクスがつかまえた一歩先の未来を見ることになった」と話す。

 ラクスは、予兆ともいえるメッセージを「アーティストの普段の実践から出てきたものだ。アーティストは生産的なものや、見慣れたものを生み出そうとしているのではない。地面の裂け目や断層のようなところを常に見つめ、そこに見えるものを作品にしようとしている」と説明した。

 数年に1度行われる芸術祭は、祝祭的な扱いをされることも多い。だがラクスは「周囲の人々と共に日常を超えた先に何があり得るか、生き方や人生を考え直す機会だ」とトリエンナーレを位置付けている。

 10月11日まで。チケットは日時指定制で一般2千円ほか。問い合わせはハローダイヤル050(5541)8600=午前8時から午後10時。

*写真はいずれも「ヨコハマトリエンナーレ2020」の展示風景

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