【2018年9月16日紙面掲載】
文化部OBの大先輩記者から「君のコラムは自虐と皮肉がいいね」と言われた。「自虐」も「皮肉」もまるで心当たりはないのだが、褒めてくれたのはうれしい。その大先輩が感心した将棋用語が「形作り」。
負けを悟った側が悪あがきをせず、美しい局面で終局するように指すことをいう。将棋を文化として捉え、勝ち負けを争うだけでなく棋譜に価値を見いだすという概念から生まれたのだろう。
例えば「頭金」とは最も簡単な詰みの状態をいうが、プロの公式戦ではまず出現しない。その前に負けを認め、投了してしまうからである。
棋士によっては、形作りどころかまだ先の長い中盤戦で投了ということもある。これは「早投げ」や「チュン投げ」といわれ、性格が表れるので特定の棋士に多い。
その代表格が島朗九段(55)だ。先日はある番組の解説で「自分の投了図を将棋ソフトに調べさせたら、何局も『優勢』と形勢判断されちゃいました。これじゃ勝てないですよね」と笑っていた。
投了のタイミングには「差は小さいけどこの相手は間違えない」とか「この人ならとんでもないミスをするかも」といった判断基準もあるはずだ。勝負の世界では信用も大きな武器になる。
島先生には修業時代、研究会で教わっていたが、こちらが優勢でもなかなか投了してくれないことが多かった。期待に応えて? よく逆転負けしたものである。そうか、これが自虐なのかな。