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沖縄の苦難と向き合う舞台劇 ウルトラマン生んだ脚本家の半生

カルチャー | 神奈川新聞 | 2018年9月6日(木) 09:57

金城哲夫の生涯に思いをはせながら、舞台への決意を語る斉藤尊史(左)とみやざこ夏穂=川崎市麻生区の劇団民芸
金城哲夫の生涯に思いをはせながら、舞台への決意を語る斉藤尊史(左)とみやざこ夏穂=川崎市麻生区の劇団民芸

 1966年に放送を開始し、今もなお世代を超えて愛される特撮ヒーロー「ウルトラマン」。生みの親の一人である沖縄出身の脚本家、金城哲夫(38~76年)の半生を追った舞台劇を8日、劇団民芸(川崎市麻生区)が横浜市泉区で上演する。栄光と挫折とともにあった金城の生涯を通じ、沖縄の過去と現在が浮かび上がる本作。「この島の現状に目を向けるきっかけにしてほしい」と、俳優たちは真剣なまなざしで芝居に臨んでいる。

 2年前に東京で初上演した本作のタイトルは「光の国から僕らのために-金城哲夫伝-」(作・畑沢聖悟、演出・丹野郁弓)。今回は横浜を皮切りに全国10カ所を巡回、金城の出身地である南風原(はえばる)町など沖縄の劇場にも出向く。


「光の国から僕らのために-金城哲夫伝-」の一場面から。「ウルトラシリーズ」に登場する友好珍獣「ピグモン」も出演する
「光の国から僕らのために-金城哲夫伝-」の一場面から。「ウルトラシリーズ」に登場する友好珍獣「ピグモン」も出演する

 「心して演じないと沖縄の人に失礼」。金城役を演じる斉藤尊史(47)と、金城の盟友で同じく沖縄出身の脚本家、上原正三役のみやざこ夏穂(53)は緊張を隠さない。念頭にあるのは、依然として過重な基地負担を抱える沖縄の現実だ。

 6歳で沖縄戦を経験した金城は、米占領下の沖縄から東京の高校に進学。「特撮の神様」円谷英二率いる円谷プロダクションに入社し、「ウルトラマン」「ウルトラセブン」などを世に出し絶大な人気を得た。

 「視聴率を稼ぐ敏腕シナリオライター」としての輝かしい功績を誇った一方、その人生には苦悩も横たわった。

 「おまえはヤマトンチュ(本土の人)なのか? ウチナンチュ(沖縄人)なのか?」。沖縄の本土復帰前の69年、東京での地位を捨て帰郷した金城。その地でその後、ウチナンチュからぶつけられた問いは「ヤマトの回し者か」との疑念を持たれていることをも意味した。

 「両方だ」。そう言い切った金城が願ったのは「沖縄とヤマトの懸け橋になることだった」と斉藤は言う。しかし理想はかなわなかった。ラジオでの失言もあり、酒に溺れた金城は仕事場に窓から入ろうとした際に足を踏み外し、道半ばで不慮の死を遂げる。37歳だった。

 「ウルトラマンをつくった人の青春物語」とも解釈できる本作だが、沖縄と本土のはざまで揺れ動いた金城の内面にも深く迫っている。

 抱えた葛藤に思いをはせながら、みやざこは指摘した。「琉球処分からどれだけヤマトの人間が沖縄の人の人権を無視してきたか」。沖縄を「捨て石」にして本土決戦を避けた大戦末期。過度な基地負担をはじめ、痛みを押し付け続けている現状。そこに無関心でいる本土の傲慢(ごうまん)。「沖縄の軽視は今も進行している。その異常性に思いを致しながら芝居をつくらないといけない」。そう力を込める。

 物語の前半、金城は語る。「ウルトラマンの故郷は宇宙のどこかにある理想郷。そう、『光の国』。争いもない。差別もない。みんなが仲良く暮らして光にあふれた、文字通りの光の国」

 「金城さんが込めたメッセージは普遍性がある」と話す斉藤は、故郷と本土の橋渡しにと願った彼の夢と苦悩から、今の沖縄、ひいては日本の問題を考えてほしいと呼び掛ける。多くの人に愛されたウルトラマンを突破口に「楽しみながら何かに気付いてもらえる、そんな舞台にしたい」。

 会場は横浜市泉区民文化センターテアトルフォンテ・ホール。午後2時開演。一般3500円。問い合わせは劇団民芸電話044(987)7711。

 
 

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