【2018年8月12日紙面掲載】
先日、プロ棋士を目指して修業中の奨励会員と久々に将棋を指した。
中学生の彼はまだ級位者。奨励会を三段で辞めて10年以上経過した私だが、何か与えられるものもあるだろう。伸び悩んでいるようなので、胸を貸そうという気持ちで時々自宅に呼んでいる。
これまでに4、5回来てもらって、私は一局も負けていなかった。気持ちは複雑だ。
実力差は歴然としているが、10局以上指して全勝するほど離れてはいないと思う。それにこちらは勝負の現場から身を引いた立場。自分の勝利より後輩が成長してくれる方がはるかに喜ばしい。
今回は早指しで3局指し、最終局で負かされた。敗因はいろいろあるが一番は油断。勝ったと思って気を抜いた瞬間、読みにない手が飛んできて対応できなかった。恥ずかしい限りである。
互いに疑問手が多く、決していい将棋ではなかった。延々と秒読みが続く戦いで、集中力と体力の勝負になれば私が勝てるはずもない。「心技体」でいえば「技」以外は彼の方が上だろう。というより、それぐらいは上でないと話にならない。
変ないい方だが負かされてほっとした。私も経験あることで、いくら上位者相手の練習対局であれ、連敗街道はつらい。とはいえこちらも、アマチュア相手の指導と違い手心を加えるなんてできない。それは修業中の少年に対して失礼だ。
内容は褒めないけど、この勝利が少しでも自信になればうれしい。