
旧ソ連・ジョージア(グルジア)の舞踊団が舞台の映画「ダンサー そして私たちは踊った」(レバン・アキン監督)が21日から上映される。同性同士の恋愛や、伝統と「個」の間で揺れる一人の踊り手が成長する物語。本作で俳優デビューを果たした主演のレバン・ゲルバヒアニ(22)は「保守的な社会が変わる契機にしたい」と作品への思いを語る。
ジョージアの国立舞踊団で厳しいレッスンを受けるメラブ(ゲルバヒアニ)はある日、舞踊団の新人イラクリ(バチ・バリシュビリ)と出会う。共に特訓を重ねる二人は次第に距離を縮め、ライバル心が恋心に移り変わっていく。
保守色が強い同国では、同性愛者ら性的少数者に厳しい視線が注がれる現実がある。昨秋開かれた本作のプレミア上映は5千枚のチケットが10分余りで完売したが、地元のジョージア正教会は上映中止を要求。極右グループも映画に抗議し、劇場に突入しようとする騒動が起きた。
こうした価値観が根強いことから、当初は出演を迷ったと同国出身のゲルバヒアニは率直に語る。コンテンポラリーダンサーでもある自身のインスタグラム(写真共有アプリ)がジョージア系スウェーデン人のアキン監督の目に留まり、オファーを受けた経緯がある。
「同性同士の恋愛はジョージアではとても敏感なテーマ。この題材がどう受け入れられるか、少し怖い気持ちがあり初めは断りました。でも、誰かが行動しないと社会は変わらない。その役割を果たすべきだと思い至りました」
保守的な世に変化をもたらすことができたらと、出演を決めたという。

15歳でクラシックバレエを始め、コンテンポラリーダンスの世界で活躍。本作では芝居だけでなく、ジョージアの伝統舞踊にも初めて挑んだ。「両者をハイレベルなものに仕上げるのに苦労しました。撮影に入る前の3カ月の準備期間で猛特訓しました」。精神的にも体力的にもハードな挑戦だったと振り返る。
その結果、ダンサーとしての不安や焦り、イラクリとの関わりでみるみる明るくなっていく表情など、スクリーンデビュー作とは思えないほどの豊かな表現が画面で光っている。
「国の精神そのもの」と劇中で語られる、ダイナミックで躍動感あふれるジョージア舞踊も作品の核となる。「魅力はそのエネルギー。個性的でパワフルで、抑揚のあるリズム感が見る者を魅了します」。一方、繊細な動きも見せるメラブが厳格な指導者に「なよなよするな」と怒鳴られる場面は、「弱さ」を否定する同国の伝統舞踊を象徴する。
しかし、クライマックスではそうした抑圧から解き放たれたような自由で挑戦的なメラブの舞が圧倒的な存在感を放つ。
作品への思いを語る中、ゲルバヒアニは同性に恋をした自身の役を思い浮かべて次のように言葉をつないだ。
「保守的な文化があるからと、同性愛者が伝統舞踊の踊り手になることは止められない。誰を愛するかは、人に言われて決めることではないですよね」
それは、本作に込められた普遍的なメッセージでもある。
シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で順次公開。県内ではkino cinema横浜みなとみらいで21日から上映