ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市幸区)を拠点に活動する東京交響楽団(東響)が3月7日、「みんなで集えるコンサート」を同ホールで開く。障害がある人もコンサートホールで気軽に音楽を楽しめるよう、さまざまなサポートを実施する。出演者で全盲のソプラノ歌手・橋本夏季(なつき)(29)は「コンサートをきっかけに、点字のプログラムなどがもっと普及してくれれば」と東響の取り組みに期待を寄せている。
橋本は、全盲の学生として初めて東京芸大声楽科に入学。同大大学院を修了後は、プロの歌手として活躍している。
小中学生を盲学校で過ごし、「小さい頃から歌うことが好きで、将来は音楽の先生になりたかった」。12歳で本格的に声楽を習い始めた。
「パートごとに音を聴き取って覚えて、歌詞も耳から覚えました」。耳からの情報を頼りに音楽を学んできたが、音大受験に向けて点字楽譜を使うように。「聴くだけのものより、はるかに情報が多くて勉強するときにとても助かりました」と話す。
芸大に入学してからも、点字楽譜は必要だったが「簡単には手に入らないのが難点です」と指摘する。
まず、自分が欲しい楽譜を見つけ、点訳会社に制作を個人で依頼。すぐにできる楽譜もあるが、曲集の完成には数カ月かかることも。「まずは、公共図書館に必ず点字楽譜をそろえるなど、もっと手に入りやすい環境になってくれれば、障害があっても音楽を学ぶ人がもっと増えるはずです」と言う。
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東響とは2回目の協演。フォーレの「『レクイエム』より“Pie(ピエ) Jesu(イエス)”」と、モーツァルトの演奏会用アリア「はげしい息切れとときめきのうちに」の2曲を披露する。
「フォーレは聴いているだけでも琴線に触れ、天使が舞い降りてきそうな曲。モーツァルトは技巧的なので、歌うのはとても難しいけれど、どちらも私の大好きな曲なのでぜひ楽しんでほしいです」とほほ笑む。
コンサートでは、聴覚障害者を対象にした「体感音響システム席」も設置する。演奏曲に合わせて座席のクッションなどが振動し、全身で音楽を楽しむことができる。
ほかにも、体感音響システム席での手話通訳や、点字や音声によるプログラムの準備、車いす席も用意し、補助犬同伴者も参加可能だ。
東響の広報担当者は「川崎の定期演奏会では、毎回点字プログラムを用意しています。今後も、幅広い市民の方々にオーケストラのコンサートを楽しんでもらえるよう、サポート体制を充実させていきたいです」と話している。
音楽により親しむための試みとして、ストラビンスキーの「火の鳥」では、プロジェクションマッピングの演出も行う。開演前には、オーケストラ団員や指揮者の視点から360度の映像で演奏会を楽しめる仮想現実(VR)体験も用意する。
東京交響楽団
「みんなで集えるコンサート」
3月7日
※午後4時開演。全席指定2千円。4歳以上入場可。問い合わせは、東響チケットセンター電話044(520)1511。プライオリティー・エリア(車いす席、体感音響システム席)を希望する場合は、事前に同チケットセンターまで。